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この裏切りは、君を守るため 第40話

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第4章 裏切りと愛憎

7 危険な駆け引き

「あやしいな。もしかして、反エスツェリア組織? そういえば、組織の何人かが捕らえられて地下牢に閉じ込められているね。君は彼らを助けに来たとか?」
「ちが……」
「そう、ならば違うかどうか確認してみようか? 今ここで」
 ファンローゼの顔が青ざめる。言葉がでなかった。この危機から抜け出す方法を見つけ出すことも、そして、自分が今どんな表情をしているのかも。
「やっぱり、そうなんだね」
 ファンローゼは違うと首を振る。
「まあ、いいや。そうだ、もし僕とつき合ってくれたら君のことは黙っていてあげる」
「な……」
「簡単なことだろう?」
 ファンローゼは言葉を飲む。つまり目の前の男の要求は、ファンローゼの正体に目をつむるかわりに……。
 それがどういう意味か分からないファンローゼではない。
「断る? だったらこのまま君を不審者として連れていこう。そうなったら、どうなるか知らないよ。口を割るまできつい拷問を受ける羽目になる。エスツェリア特務部の拷問は過酷だって評判だ。女性だって容赦はしないってね。それでもいい?」
 肩に置かれた手に力が込められた。その痛みにファンローゼは眉根をよせる。
「……離してください」
「ひどいことはしないよ。君は魅力的だ。君を抱かせてくれたら解放するよ」
 男の手が腰に回された。
 ファンローゼは泣きそうな表情を浮かべる。この男に従うということは自分が反エスツェリアの組織の者として動いていることを認めることになる。
 いや……それこそが、男の目的なのか。
 巧みに誘い出し本音を引き出そうと。
「どうしたの? 何か言って」
「……私は」
 男はくすりと笑った。
「僕の提案を受け入れたら、自分が組織の人間だと認めることになるものね。でも、隠さなくていいんだよ」
 肩を掴む相手の指がきつく食い込む。
「いい子になって、僕の言うことを素直に受け入れたらいい。そうすれば、君の望むものと命を保証するよ」
「何のことだか、わかりません」
「鍵」
 ファンローゼは息を飲む。
「地下牢の鍵が欲しいんだよね」
「どうし……っ」
 ファンローゼは慌てて口元を押さえた。
 今のは迂闊であった。うっかりだとか失敗は決して許されないことなのに。
「やっぱり、ほら」
 と、言って手首を掴まれ、その手が男の胸元のポケットに導かれた。そこにある堅く小さな何か。
「僕の胸のポケットに、机の引き出しを開ける鍵がある。なぜ、僕が鍵を持っているかって? 僕、大佐に信頼されているんだ」
 大佐から信頼されているということは、間違いなくこの男もエスツェリア軍の者。
「先だって、反エスツェリア組織の者を捕らえた。拷問により仲間の口から情報がもれるのを恐れ、必死になって仲間を救おうとする。そして、今日のパーティーは多くの人間が集まるという絶好の機会。必ずやってくると思っていたよ。とはいえ、君みたいな可愛いらしいお嬢さんが来るとは予想もしなかったけれどね」
 男はファンローゼの顔をのぞき込む。
「どう? 間違いないよね。だから、それを知った上で、僕の要求を飲めば、君に牢の鍵を渡すし、解放してあげる。君だって死にたくはないだろう。何なら、地下牢にいる彼らを助ける手助けをしてあげてもいい。そうしなければ、仲間の元に帰っても、君が責められることになるだろうから」
 ファンローゼは泣きそうに顔を歪めた。
「こういっては何だけど、君はこういうことをするのには全然向いていないよ。君は素直すぎる。さあ、どうするべきか選んで」
 ファンローゼはがたがたと震えながら、相手の腕にしがみついた。
 敵である男に。
 けれど、そうでもしないと足元から崩れてしまいそうだったから。
「かわいそうに。そんなに怯えなくても僕はひどいことはしないよ。君は可愛らしいから、優しくしてあげる。それに、君たちエティカリア人が思っているほど、僕たちは野蛮でも何でもないんだよ。そうだね、言ってみれば時代が悪かった」
 目隠しをされた隙間から、ぽろりと涙がこぼれ落ちる。
「困ったな。ますます、君のことが欲しくなったよ」
 母や父、そしてコンツェットを銃で撃ち、多くのエティカリアの人々を殺し、あるいは国から追い出し居場所を奪ったエスツェリア軍に身体をあずけるなど考えられなかった。
 だけど、これで皆が救われるのなら。
 クレイの役に立てるのなら。
「さあ、言ってごらん。君は組織の者だね? 仲間を助けに来た」
 ファンローゼは手を強く握りしめた。

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