この裏切りは、君を守るため 第24話
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第3章 思いがけない再会
4 どこか遠い所へ
「なるほど。そんなことがあったとは」
ファンローゼはスヴェリアとエティカリアの国境沿いに流れるラーナリア河で倒れていたところを、親切な老夫婦に拾われ彼らの元に身を寄せていたことを語った。
クルトはファンローゼの手をとった、
「辛い思いをしてきたのだね。サラ……いやお母さんがどうなったのかも、もしかして覚えていないのかな?」
ファンローゼは分からないと首を振る。
「そうか……コンツェット君は?」
突然ファンローゼはびくりと肩を跳ねた。コンツェットという名に反応したのだ。
「コンツェット?」
「彼のことも覚えていないのかい? 仲がよかった幼なじみで、将来結婚するのだと言っていたのだよ」
ファンローゼの目に涙が浮かびあがる。
「ファンローゼ! もしかして何か思いだしたの?」
クレイが問いかける。しかし、ファンローゼは激しく首を振った。
「かわいそうに。コンツェット君のことも覚えていないとは。あんなに仲がよかったのに……」
クルトは優しくファンローゼの頭をなでた。
「ところで、クレイ君だったかね?」
「はい」
「君が娘をここまで?」
「申し訳ございません。父親に、クルトさんにお会いすれば彼女の記憶も戻るのではと思ったのですが、もしかしたら僕の考えは浅はかだったのかもしれません。ただあなたに会わせたいばかりに、彼女の危険もかえりみず」
「いや君には本当に感謝しているよ。こうして、もう二度と会えないと思っていた娘に会えたのだから」
「そう言っていただけて、僕の気持ちも軽くなります」
「ファンローゼ、もう何も心配などしなくていい。おまえのことは私が守ってあげよう。辛いだろうが、ゆっくりと記憶も取り戻していこう。ずっと側にいるからね。もう二度と離したりしない」
その夜、三人で食事をとった。
クルトが父と言われて戸惑いを覚えたが、自分を見つめるクルトの目には深い愛情があふれていた。
「それにしてもクルトさん、よくご無事で」
「ああ、三年前、屋敷にエスツェリア軍が押し寄せ、あの時私は敵軍の銃で撃たれた。その頃私は抵抗組織に身を寄せるようになり彼らの手によって奇跡的に助けだされ、奴らの手から逃れられたのだよ」
「そう、だったのですね」
「クレイはクルト・ウェンデルの大ファンなんですって。ね?」
「君が私の?」
「はい! 作品はすべて拝読させていただきました。こうして尊敬する方とお会いできて光栄に思っています」
「そうか……まだそう言ってくれている人がいるのだな」
「あたり前です。先生の作品の続きを待っている読者はたくさんいます」
クルトは嬉しそうに口元に笑みを浮かべた。
「ところでクルトさん、これからどうするつもりですか?」
「ああ……本当は抵抗組織の一員としてエスツェリア軍と戦っていくつもりだったが、こうして大切な娘が帰ってきてくれたのだ。この国を出ようと思う」
クルトは真剣な顔でファンローゼと向き合った。
「ファンローゼ、一緒にここを出よう。そして、どこか遠い国で静かに暮らそう」
胸がじんと熱くなる。
記憶を取り戻したわけではないが、それでもこの人の側にいると安心できるような気がした。
クレイと一緒にいた時とは違う安心感。
やはり、目の前の男性は自分の父親なのだろう。
ふと、クレイは静かに立ち上がった。
「クレイ?」
「少しその辺りを歩いてきます」
「待ってクレイ、こんな遅い時間に」
しかし、クレイは片目をつむって笑うだけであった。
「きっと私たちに気を遣ってくれたのだろう。彼がファンローゼをここまで守ってくれたのだね。おまえは本当によい人に巡り会えた」
「ええ、クレイには何度も助けてもらったわ」
「そうか」
その晩、遅くまで父は母のこと、コンツェットのことを語ってくれた。
自分がどういう娘であったか。どういう暮らしをしてきたのか。
ようやく眠りについたころ、静かに扉が開く音が聞こえた。おそらく、クレイが戻って来たのだろう。
