心霊食堂 旅立ちは 思い出の味で 第11話
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第2章 思いやりのお弁当
4 霊能者のお手伝い
翌日、八尋は一樹とともに、例の通り魔事件が起きた現場に向かった。
ここで悲惨な事件が起きたのは一ヶ月前。5人が死亡、7人が重軽傷を負った殺傷事件が起きたとは思えないくらい、今ではすっかり何事もなかったように、人通りも戻り、いつもの日常を取り戻している。
事件があった現場付近にコンビニがある。直哉はそこでお昼ご飯を買うために寄ろうとして事件に巻き込まれた。
確かにお弁当を持っていれば、このコンビニに寄ることもなかった。そうすれば、通り魔に襲われることも。
いや、と駅前のロータリーに立ち、現場を眺めていた八尋は心の中で否定する。
それを言ってしまったらきりがないのだ。だが、妻の深雪からすれば、それは一生、消えることのない後悔として胸に刻まれていく。
そう思うと気の毒でならない。
事件のあった辺りで腕を組み、現場を眺めている一樹を八尋はちらりと見る。
道行く女性がちらちらと、一樹に視線を向けて通り過ぎて行く。
とにかく人の目を引くイケメンだ。整った顔だちにモデル並みの長身。店では割烹作務衣を着ている一樹だが、今はチノパンに白いセーター、ロングコートというスタイリッシュで爽やかさ全開の服装だ。
一樹の側にいると、平凡な自分の存在が薄いこと。
誰も自分のことなど見向きもしない。もっとも、一樹と自分とでは比べようもないことは認める。
無言で現場を見ている一樹に八尋は声をかける。
「一樹さん、何が見えますか?」
九重さんでは呼びづらいだろうから、一樹でいいと言われ、そう呼ばせてもらうことにした。
「事故で亡くなった人たちの無念が漂っていますね。家族に見送られ無事に浄化した者もいますが、突然、事件に巻き込まれ、殺され、いまだ自分が死んだことすら分からずにここに残っている人もいます。直哉さんもその一人のようです」
「直哉さんがここにいるのですか?」
「何かを探しているようです」
探している?
「視えませんか? 八尋くんなら視えるはずですが」
「視えるでしょうか……」
八尋は一度だけ目を閉じ、そしてゆっくりと開いた。
すっと目を細め、普通の人には視えない者の姿を捕らえようと意識を切り替える。
以前、一樹に教わった視えるコツを試してみる。
頭の中で視えるようにとスイッチを入れる感じだ。すると、普通に歩いている通行人にまぎれ、この世の者でない者たちの姿が視えた。
うわ……いる。
戸惑ったようにその場で呆然としている者。
その場で苦しげに呻く者。
泣いている者。
助けてと叫んでいる者と、さまざま霊がいた。先日の通り魔事件とは関係のない者もいる。
その中で、一人の若い男がうろうろと歩き回っている姿があった。
一樹が直哉は何かを探しているようだと言っていたが、この人がそうなのか。確かに深雪に見せてもらった写真の男の人と似ている気がするが、はっきりあれが直哉だと言い切れる自信はなかった。
「あそこで行ったり来たりしている人がそうでしょうか?」
必死な形相で、探し物をしている直哉を示す。
「そうです」
「何を探しているのでしょうか?」
「それは、本人に聞いてみないと分からないですね」
「はあ」
「そこで、今日は八尋くんにお手伝いをしてもらいたいと思って、ついてきてもらいました。協力してもらえますか」
「もちろんです。僕にできることがあれば何でもやります! 何でも言いつけてください!」
即答で返事をする。
まるでご主人さまに従う犬である。
犬でもなんでもいい。どこにも行くところがなく、お金すらも持っていなかった自分に、一樹はご飯を食べさせてくれ、雇ってくれた。寝床も提供してくれた。この恩は一生忘れない。だから、自分にできることなら何でもするつもりだ。
「助かります」
「それで、僕は何をお手伝いすればいいのでしょう」
「簡単です。直哉さんに話しかけてみてください」
「分かりました。でも、いきなり僕が話しかけても大丈夫でしょうか」
大丈夫とは、いろいろな意味でだ。
いきなり見ず知らずの人が話しかけても、聞いてもらえるか、というのもあるが、それより何より、僕が幽霊と会話をできるのかということだ。
何しろ、一樹とは違い、霊と話をするのが初めてだから。直哉を連れて帰ると深雪に約束した手前、自分が失敗をしては申し訳なさすぎる。
しかし、八尋のそんな心配をよそに一樹はにこりと微笑む。
「大丈夫ですよ」
何を根拠に大丈夫なのかは分からないが、一樹が大丈夫だというのなら、きっとそうなのだろう。
疑う必要はない。だから、ここはやってみるしかない。
「分かりました。話しかけてみます!」
と、意を決し、八尋は直哉に近寄っていく。
一方、直哉は八尋が近づいていくことも気づかず、一心不乱に下を向きながら探し物をしていた。
ー 第12話に続くー
