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『怨霊が棲む屋敷 呪われた旧家に嫁いだ花嫁』 第37話

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第4章 村はずれの社に住む男

9 雪子の動揺 

 翌日、鈴子を見舞いに病院に行くと、思いのほか元気そうで安心した。
 熱も下がり、検査の結果も異常ないとのことでほっと胸をなでおろす。
「雪子お姉さん、ありがとう」
 雪子は笑って鈴子の頭をなでた。
「早くよくなるといいね」
「うん」
「元気になったらまた遊びましょうね。はい、これ鈴子ちゃんに」
 鈴子が寂しくないようにと、雪子はおみやげにうさぎのぬいぐるみを手渡した。

「わあ、かわいい。このうさぎさん、鈴子に?」
「そうよ」
「ありがとう」
 雪子からもらったぬいぐるみを、鈴子は骨折していない左手で嬉しそうに抱きしめほおずりをする。

 鈴子ちゃん、可愛いな。

 雪子はぐっと手を握りしめた。
 昨晩、布団に入ってからずっと考えていたことがあった。

「お母さん、お願いがあります」
 あらたまった雪子の口調に母は緊張した面持ちになる。
「お願い? どうしたの?」
「鈴子ちゃんが退院したら、しばらく家に置いてあげて欲しいの。いいでしょう?」
「それはもちろん。私はかまわないけれど」
「いや、ちょっと待ってくれ」

 思いもしなかった雪子の提案に、高木は驚いたように目を丸くする。そんな高木に雪子は真剣な顔で向き直る。
「高木さんも村を出る準備で大変になるのでしょう? だったら、鈴子ちゃんはうちで預かっていたほうが安心するんじゃない?」
「確かにそれはそうだが。だが……そこまで迷惑をかけるわけにはいかない」
「迷惑でも何でもないわ。そのくらいたいしたことではないし。ね? お母さん。そうよね?」
「もちろんよ」
「だが……」
「うちはぜんぜんかまわないわよ。どうせ、お父さんと二人暮らしだから。いいえ、そうしなさい。それに、高木さんには雪子もお世話になっているのだし、そのくらいどうってことないわよ。そうそう、後で鈴子ちゃんの好物を聞いておかないといけないわね」
 母は鈴子を預かる気満々でいる。

 雪子は鈴子の側に膝をつき、目線を合わせる。
「ねえ鈴子ちゃん、お父さんね。お引っ越しのためにちょっとだけ忙しくなるの。だから、鈴子ちゃんはお姉さんのお母さんのところで暮らすんだけどいい?」
「お父さん、お引っ越しするの? 村をでるの?」
 鈴子の問いかけに高木は静かに頷く。

「雪子お姉さんもいっしょ?」
「ごめんね。私は村に帰らなければ」
 雪子は寂しそうに答える。
「もうお姉さんに会えないの?」
 子どもながらにも、村を出てしまえば雪子との接点が消えてしまうと感じたのだろう。
「そんなことないわ。町に来たら必ず鈴子ちゃんに会いにくるし、お手紙だって書くから。ね?」
「雪子お姉さん、お父さんのお嫁さんになればいいのに」
「ふえ?」
 変な声がもれてしまう。

「そうしたら、ずっとお姉さんといられるのに……鈴子、お姉さんのことが好きだもん。お母さんになって欲しいなあ」
 雪子の顔がたちまち赤くなる。
「雪子お姉さんは、お父さんのこときらい?」
「きら……そんなことないわよ。高木さん、いい人……だし……」

 ここでさらっと大人らしく上手に受け答えができればいいが、それもできず、しどろもどろになる。
「鈴子、お姉さんを困らせるな」
 娘をたしなめる高木に、雪子はほっとする。

 子どもの言うことだ。
 何気なく鈴子は口にしたのだろうが、意識しすぎて高木の顔をまともに見られない。
 だから、高木が鈴子の言葉にどういう反応をしているのか分からなかった。
 横では母がくすくすと笑っていた。

「あ、あのね……高木さん……ううん、お父さんが迎えに来るから、それまで待っていてくれる?」
 鈴子はこくりとうなずきながら、うさぎのぬいぐるみの頭をなでる。
 高木は雪子の母に深く頭をさげた。
「すみません。鈴子を、娘をどうかよろしくお願いいたします」

第38話に続く ー 

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