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宇宙省年神課の正月(2472字) │ 特撮ショート

 私が昨年から働き始めた宇宙省は元日といえど、毎年大勢の職員で溢れかえる。年始恒例の年神様を招く祝賀会を、当日に迎えた朝のことだったからだ。

「F君、この翻訳機を後で部長に渡してきてくれ。彼は心配性だから、しつこく催促されると敵わない」

私は抱き抱えていた段ボールの山を一度地面に置こうとしながら、はいと生返事をした。テキパキと周囲に指示を出すこの中年男性は、私の教育係で課長のYさんだ。仕事ができると周囲からの評判がめっぽう良い。

「君が初めて会う年神様は蛇になるのか。十二年前の私と同じだ」

客人をもてなす大広間に向かう廊下を横になって歩いていると、きっと忘れられない一日なると思うよと言いながら、彼は昔を懐かしんでいるようだった。

 年神様と言っても空から降ってくるのは、由緒ある宇宙人の一族を乗せた大船団である。他の惑星と良好な関係性を築く狙いで、その年の干支にちなんだ動物の血が入った一族を出迎えて、地球、もとい日本なりのもてなしをする。ある種の神事のような名で呼ぶ異星間外交を任されているのが、我ら宇宙省年神課というわけだ。

「課長、ご報告したいことが。管制塔が予定より早く蛇族御一行の船をレーダーで確認。あと一時間半ほどで港に着く模様です」

 気づくと私たちの背後で慌てて走ってきた一人の職員がいた。彼らが来るのは昼過ぎ頃のはずだったが、連絡の行き違いでもあったようだ。

「事前の情報と違うが仕方ない。管理職連中を支度させて、すぐに港に連れて行くように。どうせ喫煙所にいるだろうから。ああ、調理班への連絡はいい。私から話したいことがある。教えてくれてありがとう」

肩で息をする職員を労いながら、課長は慌てるそぶりを見せず、調理場へと向かっていった。私も翻訳機の件を思い出し、大急ぎで喫煙所を目指した。

 私たちのいる異星人をもてなす館と港は二十キロほど離れているが、専用で設けられた地下リニアのおかげで数分あれば着いてしまう。あれからちょうど一時間後。銀色の船から現れたスーツ姿で頭だけ白い蛇の集団は、まるでとぐろを巻くように長い列を作りながら、無事に館までやってきた。

「本日はようこそお越しくださいました」

「盛大なお出迎えに感謝いたします。お会いできるのを楽しみにしておりました」

 小学校の頃に見た学校のプールよりもはるかに広い客間に、翻訳機を耳につけた部長の声と、蛇族側の長の声とがマイクを通して響き渡る。無数に置かれた円卓には、宇宙省の職員と一族の関係者が半分ずつ占めるよう席が決められていた。蛇人達は透き通った黒目を時折細め、先が二つに割れた舌先を出し入れしながら笑顔を覗かせ、楽しそうに談笑している。続けて響く部長の合図で、乾杯も行われた。

「さっそくですが、新年を祝うにふさわしい料理の品々をお召し上がりいただこうと思います」

 変わって音頭を取ったのは、司会者台に立つYさん。彼の言葉に合わせて、部屋の脇に控えていた職員達が続々と料理を客人達の前に運んでいく。

「一品目にご用意したのは、こちらでございます」

それまで被せられていたクローシュが一斉に開けられると、白い器の上に盛られていたのは、なんと黄金に色に輝く二つのいなり寿司だった。

 会場の脇で立ち見をしていた私も思わず声が漏れた。事前の打ち合わせでは、紅白うずらが添えられた豪華なお節料理が出されると聞いていたのに、メニューが急遽変更されている。先ほどまでの雰囲気から一変。蛇人達の目は笑っていない。

「お気持ちは嬉しいのですが、私たちは十二年振りのお節料理をとても楽しみにしていました」

族長の尖った口から出てきたのは、悲しみに満ちていそうな言葉の数々。だが、各円卓に散りばめられた宇宙省の管理職達は、ただ笑顔を振りまいているだけで、取り繕おうとすらしない。

「そうでしたか。ですが、この料理も絶品ですよ。ぜひご賞味いただきたい」

課長は自信に満ちた顔を崩そうとはしない。困った様子の蛇人達は、箸で黄色いそれを少し触ってみたり、皿を回して見る角度を変えたりする者はいれど、誰一人として口にしない。

 会場内に春の海が繰り返し流れるだけで、しばらく沈黙の時間が流れたが、観念した様子で喋り出したのは蛇人の族長だった。

「もう結構です。私たちがいけませんでした。失礼な振る舞いをお許しください」

一瞬何のことか理解できなかったが、私の目の前で蛇人達が次々と脱皮し始めた。よく見ると、よくできたマスクのような物を頭からかぶっていたようで、引きちぎられた残骸が彼らの足元に落ちていく。ひとしきりそれが終わると、新たに現れたのはスーツを着た狐の集団だった。

「やはり、狐族の皆様でしたか」

「申し訳ない。干支に入っていない私たちは、この行事にどうしても出てみたくてね」

「お気になさらないでください。日本と関わりの深い方々とわかっていながらも、お稲荷をお出ししてしまった無礼をお許しください。本当の蛇族の皆様がお見えになるまで、そう時間がありませんので」

「わかっています。今すぐ船に戻りましょう」

「恐れ入ります。来月には初午の儀がございますので、改めてお出迎えさせてください」

 狐の御一行は跳ねるように自分たちの船に飛び乗り、あっという間に空の彼方に消えていった。彼らを見送るために港にいた私と課長はしばらく立ち尽くしていたが、「良い予行練習にはなったな」と彼は切り裂かれた雲間を見上げながらそう言った。

「なんで蛇人ではないとわかったんですか」

「長いことこの仕事をしているとね、わかるんだよ」

そんなわけはない。課長の顔を訝しげに見ていると、彼は観念したように笑いながらこう続けた。

「十二年前はね、龍人たちと一緒の船できたんだ。干支の順番が前後だろう。交互に送り合うほど仲がいいみたいでね。派手な見た目をした船だったからよく覚えているよ。ほら、あんな風にね」

課長の視線の先には、まるで宙に浮かぶ巨大な城のような形をした船が見てとれた。手元の時計を見ると、短針は正午を指している。忙しい元日はまだまだ終わりそうにない。


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