春一番が銀河に吹く時 #せりふ三題噺 #屋上春一番ローファー
放課後の屋上は、地上よりも少しだけ季節が進んでいるようだった。
突風が吹き抜け、彼女のスカートを乱暴にゆらす春一番。
「ねえ、知ってる? 春一番に吹かれながら願い事をすると、古い自分を脱ぎ捨てられるんだって」
フェンスに背を預けた彼女が、突拍子もないことを言う。足元では、履き慣れたはずの茶色のローファーが、所在なげにコンクリートを叩いていた。
僕は黙って隣に立った。彼女の横顔は、舞い上がる砂埃のせいで少しだけ霞んで見える。卒業まであと数日。僕たちが"ただの同級生"でいられる時間も、砂時計の最後の一粒のようだった。
「……嘘よ、そんなジンクス。今、……作ったの」
彼女が茶目っ気たっぷりに笑って、僕に囁く。「ずるいね。そんなに優しい顔して、私のこと一度も引き止めないんだから」
……と、学園ラブコメを書きたかったけれど。調子が出ないので、やっぱり、スぺオペで書きなおそう。
巨大宇宙ステーションの最上階、むき出しのトラスが組まれた屋上。
そこは、正規の乗組員が立ち入らない法の外だった。
「この宇宙模様、気象予報のとおりだ。これでまた楽ができる」
その男は、銀河連邦の追跡リストにのる凄腕の密輸業者、コードネーム『ローファー(怠け者)』。
誰よりも早く、面倒事から逃げ出すことからそう呼ばれている。履いている靴はローファーではなく磁力ブーツであったが。
今日は年に一度、主恒星の活動が最大に達し、ステーション全体を電磁波の嵐が包む日だ。そう、春一番とよばれる磁気嵐に乗れば、どんな厳重な包囲網も無効化して星域を脱出できる。
「また、一人で逃げ出すつもり?」
背後から響いた高い声に、男は煙草をふかす手を止めた。
「俺は名前に忠実なだけさ。厄介事からは、風のように消えるのが主義でね」男は、自嘲気味に笑って振り向いた。
そこには、この星の執政官の娘が立っていた。 彼女は、男が奪ったはずの機密データチップを指先で弄んでいる。
「本物はこちらよ。これ、ほしかったら私を連れて行って」
男は一瞬、呆然とした。そして、吹き荒れ始めた電磁の風に髪を乱しながら、降参するように両手を上げた。
「ずるいね。俺が一番逃げ出せない"厄介事"が条件か」
宇宙ステーションの外壁を叩く青白い火花が、二人の影をコンクリートの床に長く伸ばす。 怠け者の名を返上するには、どうやら星ひとつ敵に回すくらいが丁度いいらしい。
* せりふ三題噺に参加いたします。上記、ふたつでセットです。
前半は、主人公・ローファーの青春の回想ということで、どうでしょ?
変則ですみません。よろしくお願いいたします。
今週のお題
■セリフ 「ずるいね」
■三題 ・屋上 ・春一番 ・ローファー
