【はじめてのnote】フォロワーゼロの夜に、灯したもの
フォロワーゼロの夜に、灯したもの
ふかい夜だった。
部屋の明かりはぜんぶ落として
机の上の小さなランプだけを、ぽつりと灯していた。
かごの中で、みーくんがこそりと身じろぎする。
その音と、画面の中で点滅するカーソルの光だけが
その夜の、わたしの世界のすべてだった。
なにを書けばいいのか、わからなかった。
ううん……ほんとうは
書きたいことなら、胸の奥にたくさんあった。
ただ、それを誰かの目にさらすということが
こんなにもこわいなんて、知らなかった。
フォロワーは、ゼロ。
この夜に、わたしの言葉を待っている人なんて
どこにもいない。
果てのない暗闇に
小さなマッチを一本、そっと擦るようなもの。
誰の顔を照らすこともないまま
すぐに消えてしまいそうな、ささやかな投稿。
それでもわたしは、「公開」のボタンに
そっと指をのせた。
……なぜだったんだろう。
たぶん、書かずにいることのほうが
もっとずっと、苦しかったから。
誰にも届かなくても、いい。
ただ、この夜に
わたしが確かにここにいたというしるしを
暗闇の中に、そっと置いておきたかった。
ぽちり、と。
ボタンを押した瞬間
なにかが劇的に変わったわけじゃない。
世界はあいかわらず夜で
みーくんはあいかわらず眠たそうで
ランプはあいかわらず、小さく揺れていた。
投稿してから数分おきに通知欄を開いては
何も起きていない画面を見つめていた。
それでも、わたしの中で
確かにひとつ、灯りがともった。
誰も見ていないその瞬間を知っているのは
かごの中でまどろむ彼だけだった。
あれから、季節は何度もめぐった。
誰の目にも留まらない夜もあったけれど
それでもこの小さな火を絶やしたくなくて
言葉をくべつづけた。
いまでは、この小さな明かりのまわりに
思いがけないほどたくさんの人が
集まってくれるようになった。
読みにきてくれるあなたのぬくもりを
夜ごとに、すぐそばで感じられるようになった。
それでもわたしは、いまでも、ちゃんと覚えている。
誰ひとりいなかった、あの最初の夜のことを。
灯るかどうかもわからなかった
あの果てのない暗闇のことを。
こわくて震える指で
それでも押した、あの小さな公開ボタンのことを。
はじめてのnoteは
けっして、うまく書けてなんていなかった。
それでも、あの一篇は
いまもわたしのいちばん奥のほうで
静かに燃えつづけている。
わたしが綴るすべての言葉の
いちばんはじめの火として。
この世界で、灯りを綴る。
そのはじまりはいつだって
あんなにもこわくて、あんなにも静かな
ひとつの夜だったのだ。
雪綴ゆき

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