理工系博士進学の魅力とキャリア
東京大学 大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻 博士3年 (学振特別研究員)
日本原子力研究開発機構 システム計算科学センター AI・DX基盤技術開発室 研究員
小長谷 莉未
高校でなぜ理系(物理)を選択したか?
幼少期から理系に関心がありました。海や宇宙のような壮大な世界と同様に私たちに見えないミクロな世界も広がっているのかな、と小学生の頃グラウンドの砂を眺めながら想像していたことを思い出します。また、母親が色彩講師で、小学校6年生の時に色彩検定3級を取得しました。その際に、色は光であり、身近な現象が理科(物理)と繋がっていると知り、物理のおもしろさに気づきました。ただ高校での得意科目は文系科目で数学と物理はどちらかといえば苦手な方でした。しかし、逆転の発想で理系で文系得意なら逆に強いのではないか、と思い、あえて戦略的に理系を選択しました。実際、理系クラスでただ一人国語満点だったことがあります。理系に進めば苦手な科目にリソースを割いてくれるため、バランスよくなれるのではないかと思ったのです。さらには、物理選択の女子は当時少なかったので、これは社会的に希少価値があるなとも感じ、あえてみんなが選ばない方を選んできました。また、当時から理系の教科書を見るたびに男性の活躍が主であり、理系は男性のもの、という風潮を感じていたからこそ「私自身がそのバイアスを変えたい」と強く思っていました。私立静岡学園高校に特待生で入学したこともあって人一倍勉強を頑張りました。
なぜ静大理学部地球科学科を選んだか?
受験がうまくいかず、また、通うなら自宅から通える大学がいいと思っていたので地元の国立大学に進学しました。この頃から博士号取得まで目標としており、さらに結婚や出産のことも視野に入れると最短で博士号を取得したかったので、浪人するという選択肢はなかったです。学問のそのものに関心があったため、理学部にいくことはすんなり決まりましたが、当時地球科学科と数学科で迷っていました。地球科学は数学、理科、社会、英語などほぼすべての学問領域とつながっており、理論も実験もできるため地球科学科を選択しました。大学時代に博士号と相性の良い学芸員資格や高校の教員免許(理科)を取得しました。授業ではとれる授業はすべて取り、人の二倍以上の単位を取得しました。大学院時代は忙しくて余裕がないので時間のある大学生のうちにたくさん勉強したり、資格を取得したりすることはやっておいてよかったと思っています。また、研究活動にも邁進し、学部4年の時に当時の指導教員と共著の論文を出せたことはかけがえのない思い出です。こうした成果が認められて理学部首席として学長表彰されました。

外部院試について
学部の際の当時の指導教員がちょうど定年を迎え、研究室を変えなければならなくなったことや、学びたい学問がはっきりしたこともあり、東京大学大学院理学系研究科地球科学科専攻を受験しました。実際に研究室訪問をしたのは学部3年の頃です。大学院入試の一年前から本格的に院試に向けて受験勉強を開始しました。特に外部院試の人はやはり早めのスタートダッシュが肝心だと思います。特に理系はその後、大学院進学する人も多いので大学に入学後もかなり重要です。そこで気を抜いていたら抜かされます。逆に言えばここで逆転も可能です。院試の成績が大学院の修士課程からお給料をもらえる(後述する)「国際卓越大学院プログラム」の採択に影響することもあり、内部の東大生に負けないように必死で頑張りました。受験科目は選択科目だったので、安定して点が取りやすい物理、化学を選択しました。その他、TOEFLの試験もあったため、大学入学当時から院試を見据えて大学内のTOEIC団体試験や英検準一級を受験するなど大学在籍中になるべく英語を仕上げておく、くらいの気持ちでやっていました。
修士課程・博士課程での経済的支援制度
大学院の経済的支援制度は日々拡充してきています。その中でも私は「国際卓越大学院プログラム」と「日本学術振興会 特別研究員」に採択されています。詳細は省きますが簡単に言うと、前者は博士課程までの一貫プログラムで修士課程からお給料(月17-18万)をもらうことができます。後者は博士課程から研究費とお給料(月20万)がもらえるものです。最近は副業規制が緩和されたことも話題に上がりました、ですので、これから大学院や研究室を選ぶ人は経済的支援制度について良く調べておくことが大事です。一例として、研究室訪問の際、採択者はラボ内にどれくらいいるのか、大学内で実施しているプログラムは何があるのか、などぜひ聞いてみましょう。採択されるには、とにかく院試の勉強や学部のときの研究を頑張ることです。外部入学でも採択されることは可能です。
大学院での生活
大学院生活は将来の見通しのなさなど不安になることもありましたが、私の場合、結論何とかなりました。人生の中で特に家庭などをもったら研究に没頭できる時間は限られています。好きなだけ研究させていただけるその環境に感謝して日々取り組んでいました。
大学院はなかなか研究成果が出ないこともあり、つらい時もあります。今になって考えるとその全く成果が出ないとき、病まずにメンタルを保つことと、いかにコツコツと研究を継続できるか、が勝負だと思っています。
ハワイの国際会議で発表したり、初めての主著の投稿論文が高校物理の教科書にも掲載されている「SPring-8」のパンフレットに載ったり、貴重な経験をたくさんしました。次世代の物理を引っ張っていくのは若い女性である、と伝えられたら嬉しいです。プライベートでは、研究の隙間時間にスパやピラティス、ヨガに行ってリフレッシュしていました。自分の場合は勉強することがストレス解消になるので新たな資格取得や株式投資に挑戦したりもしました。研究以外の目標やコーピングリストを定めておくことはメンタルを保つ上で非常に大切です。

博士課程での就活
私は自分の就活の軸を3つほど定めて(転勤なし、博士卒として評価される、在宅勤務などライフワークバランスとりやすい)研究職に限らず、いろいろな選択肢を検討していました。自分の条件と比較的合致したのは、IT系企業でのデータサイエンティストや機械学習エンジニアだったので、実際にインターンシップに行きました。IT系人材は女性が増えてきた、と言われていますがここでもジェンダーギャップがあり、数学や物理系の知識(統計学、統計力学など)を必要とする高度専門人材であるデータサイエンティストやアルゴリズムエンジニアはIT系の中でも高収入であるにもかかわらず、非常に女性割合が少ないです。そうした中で不安に思っていた就活もどこも需要があり、全く不安に思わなくなりました。実際、外資IT系のインターンシップでは、ぜひ社内初の博士女性として採用したい、と言われました。趣味の競技プログラミングや、研究活動の中でpythonを使っていたため、そうしたスキルが生かされたと思います。そういった情報系やAIのスキルに数学や物理の深い知識や博士号取得がかけ合わさることで、女性ならより希少な人材となります。さらには、そうした職種は働き方も柔軟で、在宅勤務や「専門型裁量労働制」を取り入れているケースも多いです。結婚や出産などライフプランが不確実な女性にこそ向いている、とさえ思いました。実際、生物選択より数学や物理が得意な人の方が高収入であるとの研究結果も出ています(「数学・物理」得意な理系出身者は、“高所得”!)また、博士課程在籍中、国立の研究機関(現在所属の計算センター)へも夏季実習に行きました。最終的には、国立の研究所を選び、パーマネント(任期なし)の研究員として就職しました。

最後に
今理工系女性を増やそうと様々な取り組みがなされていますが、その理系分野でも女性割合は偏っており、さらに掘り下げていくと、それは高校段階での女性が物理選択しづらい、という結果にあるようです。私たちのような数物系・理論系の女性は非常に少数派で、多くの場合、「ケアする女性像」というバイアスが強く、看護、医学、薬学、生物系などのライフサイエンス系に理系女性が流れてしまうことがいくつかの論文から指摘されています。さらには、理系に進んだとしてもその後大学院や博士課程に進まず、理系職につかないケースも多くあり、これらはリーキーパイプラインとして知られています。これらを解決するには社会構造と個人の意識を変えること、両側面のアプローチが必須となって来ます。そうした中で、私自身がロールモデルとして発信し、「このような選択肢もある」ことを知っていただくだけで、後輩の皆さんの今後の人生の選択肢が広がっていけばよいなと思っています。

この記事を書いた人

小長谷 莉未 (こながや りみ) さん
■略歴 東京大学 大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻 博士3年 (学振特別研究員)
日本原子力研究開発機構 システム計算科学センター AI・DX基盤技術開発室 研究員 (現職)
静岡大学理学部を首席で卒業し、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻に進学。宇宙地球フロンティア国際卓越大学院プログラムコース生及び学振特別研究員に採択された後、2025年4月から日本原子力研究開発機構システム計算科学センターAI・DX基盤技術開発室にてパーマネント(任期なし)研究員として就職。
■研究分野の概要
原子力・環境分野における物質挙動を、実験と理論の両方のアプローチから、計算科学およびデータサイエンスを融合して原子・分子スケールで解明する研究を行っています。第一原理計算や機械学習分子動力学を活用し、実験結果と整合的に放射性核種や材料中元素の相互作用・移行機構を記述することで、実験のみでは捉えにくい現象の理解と高精度予測を目指しています。得られた知見を安全評価や材料設計、環境影響評価へと展開し、原子力分野の高度化と社会的信頼性の向上に貢献します。
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