「弾き語り」との出逢いをくれた、先生に会いに行きたい
ひょんなことからの出逢いが、一生の宝物になった。
30年以上も前、中学生だった私。
ピアノを数年習っていたけど、受験勉強を理由に辞めることにした。
そもそも、そんなに上手じゃなかったし。クラシック音楽ばかり習っていたけど、好きになれなかったし。
区切りとなる最後のピアノ発表会に向けて、先生はある提案をした。発表予定のクラシック曲の他に、弾き語りをしてみないか、と。
弾き語り?
当時、巷では「愛は勝つ」という曲が大流行していた。
あの曲を歌っているKANさんみたいに、格好良くピアノを弾き語りしたい!!
私は二つ返事で「やりたいです」と伝えた。
すると、先生は驚いていた。
私のことを「おとなしくて、人前で歌を歌おうとはしないタイプ」だと思っていたそうだ。
でも演奏曲は、先生の一存で決まってしまった。
松任谷由実さんの「ノーサイド」。
ユーミンは、もちろん知ってる。だけど、その曲は知らない。
先生は私の前で、一度だけ「ノーサイド」の弾き語りをフルコーラスで演奏してくださった。
私は先生の演奏をしっかり聴いて、頂いた楽譜を持ち帰った。
そして、一度もユーミンの原曲を聴くことなく。
「ラグビーのことを歌ってるのかな」と思いつつ、歌詞の意味もよく分からないまま。
ただ「弾き語りしてみたい!」って気持ちだけで、ピアノも歌も、ひたすら練習した。
発表会の会場には、ユーミンのファンもいるかもしれない。この曲に、深い思い入れがある人もいるかもしれない。
その人たちに失礼のないようにしたい。
「敬意を持って演奏しなければ」という、義務感もあった。
そして迎えたピアノの発表会。
まずクラシック曲の演奏、こちらはノーミスで弾くことができた。
でも、全く気を抜けなかった。
後半に、弾き語りの出番が待っていた。
緊張しながら、歌もピアノもノーミスで終わることができた。
嬉しさよりも何よりも、やっとピアノ教室をやめることができる、という解放感で満たされていた気がする。
教室を辞めて、数か月後。
ピアノを教えてくださっていた先生が、わざわざ我が家を訪ねてくださった。
私に会いたかったとのこと。
私の最後の発表会での演奏に、先生はいたく感動してくださっていた。
教室を辞めてから、私は弾き語りのピアノ楽譜集をお小遣いで買い、練習するようになっていた。そのことをお伝えすると、先生は喜んでくださった。
ちなみに先生がいらしたときは、2冊のピアノ弾き語り楽譜集が手元にあった。「愛は勝つ」を含むKANさんの楽譜集と、当時「どんなときも。」がヒットしたばかりの槇原敬之さんの楽譜集。
時を越えて現在。
家にあったピアノは手放したけど、代わりに電子ピアノを買った。今はウクレレもあって、どちらでも弾き語りの練習をしている。
あのときの先生は、私の声質やピアノのレベルを鑑みて、相性が合いそうな曲を選んでくださったんだろう。
思わぬ曲との出逢いが、一生の思い出になった。
「ノーサイド」の歌詞は、主人公の「私」から、ラグビーの最後の試合に臨んだ「彼」への、優しいまなざしであふれている。
試合の締めくくり、「彼」が蹴ったボールはゴールを逸れて、勝負が決まった。フィールドで肩を落とした「彼」を見つめる「私」。
何をゴールに決めて
何を犠牲にしたの 誰も知らず
歓声よりも長く
興奮よりも速く 走ろうとしていた あなたを
少しでもわかりたいから
人々がみんな立ち去っても私 ここにいるわ
もしかして、「彼=あなた」は私で、「私」は先生?
そう考えたら、涙が出てきた。
先生は、今もお元気なんだろうか?
今度は私が、先生に会いに行きたい。
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