嫉妬抗体 (理系ショートショート)
” なんでアイツばっかりいい思いをするんだ
おれの方が認められるべきだ
本当はわたしが選ばれるはずなのに
世界中に溢れる嫉妬の心。
いちど嫉妬に囚われると、他人と自分の優劣を逆転しようと攻撃的になります。
人が生きる以上、嫉妬はなくならない!
なくならないが故に、誹謗中傷が絶えない。
それはリアルの世界にとどまらず、オンラインの世界でも猛威を振るっています……!
今日もどこかで嫉妬の炎が燃え、それによって傷付くひとが生まれる。
この負の連鎖を断ち切るべく、我が社が開発したのが、嫉妬心に対する抗体『シットシラズブマブ』です!!”
抗体医薬とは、特定の病気や物質を狙って治療する薬のことだ。私たちの体がウイルスや細菌と戦うために作る「抗体」を人工的に作り、薬として応用する。例えば、がん細胞やウイルスだけをピンポイントで攻撃するような抗体医薬が広く使用されている。
日本国内で細々と痔の薬を売っていた『Gファーマ』の研究員、清木 心が新たな薬の誕生を高らかに宣言した。
世界嫉妬学会 (International Society of SHITTO )
国際嫉妬シティTOKYOで開催されている学会のメインホール。500人収容可能なその部屋に、立ち見が出るほどの聴衆が集まり、割れんばかりの拍手が巻き起こる。
皆、固唾を飲んで清木のプレゼンに聴き入っている。
” (会場が静かになるのを待ってから) まず我々が最初にやったこと。それは、抗体医薬を作るための抗原を集める所からでした。
抗体医薬を作るには、まず「抗原」が必要となる。抗原とは、抗体が認識して結合する的のようなものである。抗体医薬が抗原に結合し、ターゲットを破壊することで治療効果を発揮する。
具体的には、職場やご近所さんで「あのひとは嫉妬深い!」と評判の嫉妬人100人を集めました。
その後、「100人に選ばれなくて悔しい!ι(`ロ´)ノムキー」と直接抗議してきた、生え抜きの嫉妬人8人を追加し、108人としました。
108人の血液を元に、マウスへ免疫してマウス抗体を取得、その後 ……
(中略)
……嫉妬心に対する抗体を作製しました。
はい、実に開発まで15年かかりましたね。
途中何度も諦めかけましたが、我々の心の支えになったものがあります。
嫉妬心です。
我々が私生活も犠牲にして、研究に没頭している間にも、世間では楽しく遊んでいる人たちがいる。
ずるいぞこのやろー!!
おれたちだって遊びたいぞー!!!
嫉妬心の薬を開発するのに、嫉妬心が支えになったなんて、全く皮肉な話です。
とにかく、遂に出来上がったのがこちらです!!”
清木のプレゼンが終わると、会場全体がスタンディングオベーションに包まれた。
その中には当然、ライバル会社の研究員も紛れており、昏い嫉妬の炎を燃やすのだった。
💊💊💊
シットシラズブマブの効果は絶大だった。
販売されると世界中から、攻撃的な嫉妬人は速やかに消えていった。政府がシットシラズブマブの接種を義務化したのが大きかった。おかげで隠れ嫉妬人達も、自覚なき嫉妬人達も、漏らすことなく投薬された。
結果、世界中から嫉妬は消滅し……
Gファーマのライバル会社は次々と倒産した。
もちろん、Gファーマがとんでもなく儲かったから、という理由もある。
ただそれよりも、「Gファーマよりいい薬を作るぞ」という感情が消えたことが大きい。
つまりライバル会社は、嫉妬心ではなく競争心を失い、やる気も失ってつぶれてしまったのだ。
そう、シットシラズブマブは失敗だった。
嫉妬心を抑え込む薬かと思いきや、競争心を抑え込む薬だったのだ。
世界中から競争がなくなり、一見平和になった。
と同時に、世界は成長をやめた。
💊💊💊
Gファーマの悲劇から300年後。
世界の人口は半分になり、文明は3000年ほど後退していた。
荒れ果てた居住区のはずれの路地裏に、小さな赤い花が咲いていた。
1人の少女が見つけて、その花を摘み、耳元に飾って満足気に微笑む。
すると、それを見ていたもう1人の少女が、「わたしのよ!」と後ろから花を奪った。「ほら、私の方が似合うじゃない」
これは人類にとって、新たな嫉妬のたねになるのだろうか。
2度目の参加、オカワリでございます。
池松さん、今回は創作になります。
せっかくの貴重な機会、是非またフィードバックいただけますと幸いです。
よろしくご査収ください。
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