【ショートショート】 カウントダウン
ピピピピピ
スマホのアラームを止めて布団の中でしばらくもぞもぞする。随分朝が冷えるようになった。
待ちわびた秋は突然やってきて、あっという間に居なくなってしまったようだ。
意を決して立ち上がり、洗面所で少し強めにバシャバシャと顔を洗う。水も冷たい。
ぼんやりした頭が少しはっきりして、鏡にうつる自分の顔に焦点があってきた。
「ん?」
毎日見慣れたはずの冴えない自分の顔。少しずつ後退し始めたおでこに何かが付いている。
鏡に顔を近づけてみると、くっついているのではない。マジックか何かで書かれているのは”3”の文字だった。
昨晩の記憶を辿るが、昨日は仕事が終わってまっすぐ帰宅し、ネトフリでドラマを見たらそのまますぐに寝てしまった。
独身男の一人暮らしだ。誰かにイタズラされたとも考えにくい。
とりあえずハンドソープをワンプッシュして、手に取った泡を額につけて擦ってみた。
「消えない……なんだこれ」
そうこうするうちに出勤の時間になり、とりあえず前髪をおろしてその日は家を出た。
前髪で隠れているからか、電車でも会社でも誰も気付いていないようだった。
仕事に追われるうちに額の数字のことはすっかり忘れていた。帰ったら22時でぐったり。その日はろくに食事も摂らず、缶ビールを2本飲んでリビングのソファで寝てしまった。
夜3時頃、トイレに行きたくて目が覚めた。
体が冷えたのか喉が痛い。今日は大事な会議があるのに。やってしまった。トイレから出て手を洗って何気なく鏡を見ると、額の文字が目に入って固まる。
「え? 2? 」
昨日が3で今日が2。こういうの、古いドラマか何かで見た事あるな。明日には1になって、0になったらこの世から消えるみたいな。
「はは。まさか……ね」
不安をふりはらうように独りごちて、「夢だろ」ともう一度言ってから布団をかぶって寝た。
そして朝になり、トイレに行くより先に洗面所に向かった。
「そんなばかな……」
鏡にうつる額には、”0”と書かれている。
「1はどうしたんだよっ! てか、寝る前2だったじゃんかよ。なんで一晩で0まで減るんだよ!」
誰にぶつけたらいいのか分からない不安と憤りで震えていると、
ピンポン
チャイムだ。
こんな朝っぱらから誰だ。チェーンをしっかりかけてドアの隙間からのぞくと、そこには黒いフードをかぶった姿があった。
咄嗟にドアを閉める。
一目でわかった。アレは……アレはこの世のものじゃない。
目をつぶっても瞼の裏に残る姿。深い深いその黒に吸い込まれそうにだった。全身の毛が逆だっているのがわかる。
とにかく逃げなきゃ。
振り返ってリビングの方に戻ろうとして、あまりに驚いて心臓が止まりそうになる。
さっきまで外にいたはずの黒いそれは、今度は何故かリビングのローテーブル前に腰掛けて、こっちを見ている。
「あれ?」
そこで気がついた。その黒いやつの横。テーブルの上に大きな紙袋が2つ乗っている。
「なんだろあれ」
妙に気になって、止せばいいのに近付いてみると、袋の中は
東京ばな奈に博多通りもん、鳩サブレにLeTAOのチーズケーキ。他にも全国各地の土産物がいっぱい入っている。
「え? お土産?」
「おはようさん。おむかえにきたで」
「あの……どちら様ですか? 人違いじゃ?」
「失礼なこと言いなや。間違えるわけないやろ。わたし、死神です。見たらなんとなく分かるやろ? それでな、久しぶりの人間界やさかい、ようさんお土産買うてたら、知らん間にカウント0になっててん。やから、もう慌てて来たんやわ」
「……なに言ってるんですか?」
「いやぁ、ほんまはバラマキのお菓子買いたかったんやけどな。間に合わへんかってんて。普通3って出たらもうちょい気にして過ごすもんちゃうの? 自分ずっと無理してたやろ?」
「いや、仕事忙しくてそれどころじゃあ……」
「やっぱりな。随分0になるの早いな、思たんよ。あの、ほら、あったかい水に入るのあるやん? 建物の外にあって大っきい石に囲まれたやつ」
「え? 急に何? 温泉ですか?」
「あ、それそれ。あれ好きやねん。うちらの世界にはもっとあつぅく沸騰した血の池しかないから。帰る前にオンセン入りたかったなぁ。あ、それでな、くるみっ子、あれが買えへんかってん。前は買えたのに、なんであんな人気なん?」
「いやいや、知りませんよ。旅行気分ですか」
「そうそう、旅行みたいなもんよ。こっちの世界くるのそれなりに大変なんやから。あ、ほいでそろそろ時間ですわ。どうですか? 準備はええですか? 」
「なんの準備ですか?」
「そりゃあっちに行く準備に決まってるやろ。なんてったって、あんたの命が1番のお土産なんやから」
よしまるさんの企画参加、5つ目です。
「旅」をテーマのショートショート。
まだいけるかなぁ。さすがに10は無理やったなぁ😂
よしまるさん、よろしくお願いします☺️
いいなと思ったら応援しよう!
サポートいただきありがとうございます😊嬉しくて一生懐きます ฅ•ω•ฅニャー