今日もあなたと美味しいご飯を(ショートショート)
わたしが結婚した相手は料理人だ。
それも、銀座にある老舗の料亭の料理長。
彼の舌を唸らせるのは至難の業だ。
そう、まさにミッションインポッシブル。
そして今晩のおかずは豚汁。
ミッションインポッシブルならぬ、味っ噌ん、in ポーク汁だ。そんなわたしはボキャブラ天国世代だ。
豚汁って脇役と思われがちだけど、主役にもなる。
大根は煮込むと透き通って、豚肉のあぶらを纏うとキレイに輝く。にんじんは差し色としても100点だし、優しい甘さは200点だ。そこにゴボウが加わり、根菜の三連星が完成する。大地のジェットストリームアタックはそれだけで完成された極上のスープだ。
ここに、こんにゃく、お揚げさん。旨みを吸収し、増幅することに特化した彼らも参加する。
こんにゃく、お揚げがあるとき~とないとき~では、ナルミ姉さんのテンションも変わる。なんのはなしですか。
そしてここに満を持して主役の登場だ。
肉厚の豚バラ肉は、あらかじめ表面を香ばしく揚げてある。噛み締めると肉の甘みと脂の甘みが口いっぱいに広がる。
味噌の甘辛さも、根菜ジェットストリームアタックも、こんにゃくお揚げのブーストも、全て巻き込んで私たちの胃袋を掴んで離さない。まさに、圧倒的主役。これだから、豚汁も主役になり得るのだ。
今でこそ、主人も喜んで私の手料理を食べてくれるが、結婚した当初はなかなか簡単ではなかった。足りない味を愛情でカバーしていたあの日々は、今では愛すべき通過点とも言える。
そして昔を思い出すと、あの忘れられない結婚式にたどり着く。
結婚するまでわたしは某デパートで働いていた。式に呼んだ当時の上司は酔っ払うとやらかすタイプのダメ上司だった。
そのことは十分警戒していたのに、うちの両親が不用意に上司にビールを勧めすぎて、スピーチの頃にはすっかりできあがってしまっていた。
上司は台本には無かったはずの、人生の3つの袋の話をし始めた。
「ひとつめは堪忍袋」
「ふたつめはお袋」
ここまでは良かった。
「そしてみっつめが、きん……」
と言いかけたところで、まさか花嫁自ら立ち上がって「い!いぶくろです!」と叫ぶことになるとは。
危うく、結婚式で1つ目の袋、堪忍袋を失うところだったが、今では胃袋の大切さを日々感じながら主人と過ごしている。
グツグツ
いい匂い。そろそろ完成ね。
最後にしょうがをすりおろして、さぁ召し上がれ。
今週もヤスさんの企画に参加しています。
だんだん難しくなってる気がする🥹
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