AIに踊らされて (ショートショート)
明日のデートに着ていく服はどうしようか。
悩んだ時、わたしには心強い味方がいる。AIだ。チャットウィンドウに質問を打ち込めば、何でも瞬時に答えを出してくれる。
『まず明日の天気は曇りだよ。気温が今日より5℃低いから、羽織れるものを1枚増やした方がいいね。ほら、あの元カレにもらったブルーのキレイなカーディガンはどうだい?あ、ごめんごめん。初めてのデートなのに、元カレからもらったアイテムなんて気が引けるかな。でもボクにはその気持ちがイマイチわからない。だってAIだもの。AIはねぇ……』
なんでも答えてくれるが、話が長い。
「わかった。ありがとう。ご飯はどこに行くのがいいかな?」
『おぉ!デートでご飯にいくなんて、とっても素晴らしい考えだね!実に興味深い!そうだね、やっぱり最初は相手も奢る気でいると思うから、あまり高い店にすると、「こいつ、金がかかる女だ」とか思われてもいやだよね。だから、手頃なイタリアンの○○か、カジュアルなフレンチの△△なんてどうだろう?あ、ちなみにボクの好物はビリビリ電気だよ!どう?ボクのAIジョーク、しびれた?』
答えは的確なのに、前後にいらん話が入る。どこか小馬鹿にしてきて、大しておもしろくもないのが、ほんとアイツに似ている。
◇◇◇
5年前、わたしには付き合っている彼氏がいた。
彼の名前はダイ。高校の同級生だった。当時は全く仲良くもなくて、ほとんど話したこともなかった。なんとなく顔は覚えてる同級生、そんな感じ。
地元を離れて上京し、慣れない仕事にてんてこ舞いな毎日。ちょっと息抜きに、と1人入った映画館で、たまたま隣に座っていたのがダイだった。
映画は確か、昔のフランス映画だった気がする。奔放なフランス人の生き方が好きで、でもできないのは分かっていて、そんな現実とのギャップを楽しんで観ていた。ラストもそんなオチがある訳でもなく、ただ画面の奥の少女が静かに微笑んで海を眺めるシーンで、私は何故か泣いていた。涙が止まらなくて、あぁ疲れてるんだわたし、って思って横を見たら号泣している男がいた。ダイだった。
彼はずっと柔道をやっていて、それこそ大きな熊さんみたい。でも顔は優しくて、そんな大男が横で静かに涙を流していた。
思わずギョッとして、そしてすぐに高校の同級生だと気がついた。
どちらから話しかけたんだっけ?そんなことはもう覚えてないけど、映画の後に行ったファミレスで、盛り上がり過ぎて終電を逃したことと、あの時食べた懐かしいナポリタンの味を妙に覚えている。いや、懐かしい、というのはダイに大して感じていたのかもしれない。
とにもかくにも、あっという間に仲良くなって、あっという間に付き合って、気がつけばダイは私の家に転がり込んできた。
「もうさぁ、これだけ毎日会ってて、家に帰るのも面倒だからさ、一緒に住んだ方が良くない?」
調子のいいことを言って、いとも簡単に私の奥深くまで踏み込んでくるダイ。デリカシーってなに?美味しいの?って言うようなタイプだったけど、そんな荒々しさが嫌じゃなくて、むしろ大好きで、わたしの人生、悪くない方に向かってるって思ってた。
でもそれも長くは続かなかった。
わたしも仕事がだんだん楽しくなってきて、家に帰る時間が遅くなっていた。
一方でダイは、順調に柔道の道を進んでいた。日本代表として海外に遠征することもあって、柔道に集中する時間がどんどん増えていった。
忙しくなってすれ違う。そんなのよくある話だ。
どこにでもよくある話、ということは裏を返せばみんなが解決できない話なのかもしれない。
「おれさぁ、しばらくフランス行くわ。もっと強くなってくる」
それだけ言い残してダイは突然いなくなった。
普通さぁ、お前もついてくる?とか、強くなったら帰ってくるから、とかあるんじゃないの?
1年も一緒に住んで、毎日笑って泣いてご飯食べたんだから、もっとあったでしょ?
ダイの人生に、わたしはいらなかったんだね……。
考えれば考えるほど堕ちた。もうダメだ。
ダイ……。
会いたいよ……。
◇◇◇
あれから4年。
ダイからは何の連絡もない。
ひょっこり帰ってくることも、心のどこかで期待している。でも、そろそろ次のステップに踏み出さないといけない。それも頭ではわかってる。
4年の間に、世の中には便利な生成AIってものが登場した。
わたしは、残っているダイの声、メール、あらゆるものをAIにインプットし、ダイの代わりになる何かを作り上げた。dAIの誕生だ。
次のステップが、コンピューターとの生活かよ、って思うと笑えてきて、聞いてみた。
「ねえ、わたしそろそろ恋人作った方がいいかな」
『おぉ!恋人!素晴らしい考えだね!そろそろ30歳だよね?確かに恋人のこと考えてもいいかも。結構自分でなんでもできちゃうタイプみたいだから、相手も自立したひとが良さそうだね。でも、ほんとは強がってる部分もあるから、疲れてる時や参ってる時は、寄りかかれるような頼りになるひとが良さそう。他にもこんなひとがいいってある?あったら、教えてね!データベースにアクセスして、あなたにぴったりのひとを紹介するよ!』
あぁ、dAIはちゃんとわたしのことを分かってくれている……。
「ねぇ、実はわたし、前に付き合ってた彼のことが忘れられないの。どうしたらいいかな?」
『おぉ!その彼ってブルーのカーディガンをくれた元カレのことかな?彼ってセンスいいよね!柔道一筋で、世界で戦ってるなんて、ほんと憧れるよ!ここからはあなたの気持ち次第だけど、彼にあなたの気持ちを直接ぶつけたことある?寂しいとか、会いたいって、ちゃんと言葉にして言わないとわからないタイプだと思うよ?連絡先、よかったら調べることできるから、必要なら言ってね!』
それから2週間。わたしは迷いに迷った。dAIの言うように、ダイに直接想いをぶつけた方がいいのだろうか。
でも、そんなことしたら、彼の邪魔になるんじゃないか。わたしのせいで、彼の未来を変えたくはない。それだけは嫌だ。
でも
でも、会いたいよ……。
ピンポーン
突然、玄関のインターホンが鳴った。
画面に映っていたのは、ダイだった。
◇◇
「おぉ!ただいま!元気してた?なんかさぁ、急にメールが来たんだよ。最初はスパムかなって思ったんだけど、『お前が日本で泣いてる』って。『会いに行ってやれよ。じゃないとボクが奪うよ』って書いてあってさ。おれ、お前と付き合ってること誰にも言ってなかったから、これマジなやつか?って思って。あと名前もdAIってあって、おれと似てたからさ。あ、そうそう、これお土産。エッフェル塔饅頭な。……あ、うそうそw 笑うとこだよここ。どうしたんだよ、黙っちゃって。あ、びっくりした?そうだよなぁー4年だもんな。4年の間にお前、ますます、いい女になったな!あ、髪切った?そりゃ切るかw いや、ほんとどうしたんだよ? そうそうあっちで熊と戦ったんだけどさぁ……」
話なげーよ!!
……ダイ、おかえり! dAI、ありがとう。
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