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レオ 【古賀コン10】

ガキの頃、おれは両親を殺された。その時のことはよく覚えていないが、後から聞いた話じゃ家に強盗が入ったらしい。隣の人が発見した時、血の海で呆然と座り込むおれが発見されたそうだ。そして未だに犯人は捕まっていない。

両親を失って、完全におれの人生もおかしくなった。まともな道をはずれ、暗い闇の世界をさまよった。気が付くと、おれ自身も殺しに手を染めていた。殺しの依頼を受けるヒットマン。この世界では『ドーベル』という通り名を付けられ、それなりに有名だ。

若い頃、ターゲットに抵抗されて銃を落としたおれは、残された武器──歯で噛み殺したことがあるのだ。それ以来『ドーベル』。この名前のお陰で、箔がついたのは間違いない。

この20年ほど、淡々と依頼をこなしてきた。
気がつけばおれも43歳。
段々と体の動きは鈍くなっているが、経験でカバーできている。

実際、今回の相手も大して苦労はしなかった。

寝ている間に家に忍び込み、サイレンサーを付けた銃で1発。

瞬間、返り血を浴びないよう、頭に押し当てた枕の羽毛が部屋中に飛び散ったが、あっけないもんだった。

ただ1つ、誤算があった──子供だ。

男の1人暮らしだと思っていたのに、横に子供がいたのだ。

小学校の低学年だろうか。まだ幼い。騒ぐとまずいと思って慌てたが、意外にもその子供は冷静だった。

「ぼくにもできそう……」

その子は確かにそう呟いた。
まだ死というものを理解していないのかもしれない。それでも、目の前で男が真っ赤な血を流して倒れているのだ。

さすがにどういう状況か、少しは理解できたはず。

それでも子供は、きわめて静かに「ぼくにもできそう」と呟いた。


──この子は向いているかもしれない。

おれは咄嗟にそう思ってしまった。今の時代、ヒットマン稼業も人材不足で悩んでいる。訓練だけじゃなくて、殺しのスキルやノウハウも継承しなければならない。この異質な子供は、もしかしたらおれの後継者になるかもしれない。

「ぼうず、ついてくるか?」

そう聞くと、子供はこくりと頷いた。
子供一人くらいなら生活もなんとかなる。
早く育て上げて、おれもそろそろゆっくりしたい。

「今日からお前の新しい人生だ。レオ、お前はレオだ。強くなれ」


◇◇◇


それからレオとおれの二人暮しが始まった。レオは10歳だった。申し訳ないが学校には通わせることができない。昼間は殺しの訓練をしながら、勉強も見てやった。仕事のある日は、レオが寝ている間にこなした。

万一、帰って来れないことを考えて、仕事の時はいつも置き手紙をする。レオをこちらの世界に連れ込んだせめてもの罪滅ぼしかもしれない。
おれの全財産を預けている銀行の通帳と印鑑も一緒に入れて、ローテーブルの上に置いていく。

仕事を終えて、まだレオが寝ている間に帰宅すると、今日も使う必要がなかった、と安堵しながら置き手紙をしまい込む。

そんな日々を過ごすうちに、あっという間に1年の月日が流れた。



◇◇◇


その日は朝から調子が悪かった。
12月になって急に気温が下がったせいか、朝から熱っぽい。体の動きは鈍いが、クライアントは今日決行することを希望している。やるしかない。

重い体を引きずって目的の家に入るまでは良かったが、やはりヘマをしてしまった。寝ていると思っていた家人が起きていることに気付かず、廊下で鉢合わせたのだ。大声を発しながら逃げるターゲット。本調子じゃない体では追いかけても捕まえることはできなかった。異変に気付いた近隣住民が警察に通報していたらしく、あっけなく逮捕されてしまった。

自分自身は仕方ない。もういい加減この暮らしにも疲れていたし、潮時だと諦められた。でもあいつは……レオだけは……。

警察署の取調室で、おれは意を決して言った。

「おれには世話をしている子供がいるんです。あいつだけは真っ当な生き方が出来るよう、なんとかしてやってください」


最初、警察官は聞く耳を持たなかったが、あまりに熱心におれが言うものだから「わかった。家を確認する」と言ってくれた。

良かった。はじめは後継者として考えていたレオ。一緒にいるうちに、自分でも予想もしていなかった感情が芽生え始めていた。この子をきちんと育てたい。まだまだ未来のあるレオには、違う人生も見せてやりたい。ましておれがいなくなったら、あいつの人生は自分で選ばせてやりたい。


しばらくして、戻ってきた警察官は意外な言葉を発した。


「家の中くまなく探したけど、子供なんていなかったよ。あんたの住んでる周りの住民にも聞いたが、いつもあんたは1人だったと言っている」

「そ、そんなはずはない……!」

「いやいや。食器や衣類、色々見させてもらったが、誰かと暮らしている形跡は無かったそうだ。なんでこんな嘘をついたんだ?」


険しい顔でつめよる警察官。その時、ふいに全てが分かった気がした。

レオ──あれはおれだ。

小さかった時のおれ。この道を歩き始めたばかりの……壊れかけで置き去りにしてきたおれ。両親を目の前で殺されて、震えながらも、「ぼくにもできそう……」とつぶやいたのは。





#古賀コン
#古賀コン10

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