カラッと揚がったラブレター
朝目が覚めて、二階の寝室から階段を半分くらい降りると、匂いと音と空気の全てが唐揚げを揚げていることを教えてくれる。
「おはよお。お弁当、唐揚げとなに?」
母の背中越しにワクワクしながらメニューを確認する。
「玉子焼きとソーセージ! はよ準備しいや」
定番のお弁当。運動会とかイベントの時はいつもこれだ。そしてこのやりとりも定番だ。
「ひとつもらっていい?」
半紙を敷いた大皿の上に積み上がった揚げたての唐揚げ。にんにくと醤油と肉の香りが香ばしい。答えを聞く前から思わず手が伸びる。
「ええよ」
そこでようやく母が振り返り、満面の笑みで「運動会、がんばりや!」と背中を押される。
運動の中でも走ったりジャンプしたりするのが得意だった。母いわく「あんたはお腹の中にいる時もようさん蹴ったんや。昔からキック力すごかったんやで」とのことで、「ぼくはお腹の中から走る練習をしてたんやな」と思うと、なんだかとっても可笑しかった。運動会でももれなくリレーのアンカーになって、とにかく沢山走った。
小学校時代の運動会の花形と言えば、組体操にリレーに応援合戦。赤、青、黄に分かれて、我がチームの勝利の為に全力を尽くす。組体操やリレーみたいなメインイベントは、午後に予定されていた。夕方まで走り抜くためにも、影の主役として一日を支えてくれたのは、間違いなく母のお弁当だった。
午前のプログラムが終わって食べるお弁当。メインの唐揚げも朝とは違う顔を見せる。しっとりとして、なんだか落ち着いている様子に、戦闘態勢の頭と体もクールダウンする。砂糖を使わない玉子焼きと、ソーセージの塩気は体の疲れを癒してくれた。小さい俵型のご飯はシンプルに海苔だけ。おかずの味が濃いからちょうど良い。そしてデザートはリンゴと小さなゼリー。甘いのがご飯にうつるから分けて欲しいと何度言っても、おかずとデザートはいつも同居していた。それも今では微笑ましい。
お弁当は親から子供へのラブレターだ。子供の好きなおかずをつめて、一日のがんばりを心から願う。手間と愛情を込めたラブレター。
当時の私もお弁当を食べて、キック力が二割増しになっていたに違いない。
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