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【ショートショート】ドミノのピザカッター

今回の作品は若干のサイコホラー要素が含まれます。苦手な方はブラウザバックください🫣


「うわぁ。こりゃひどい」

Y県の山中にある貸別荘地域。人里離れたその中にある古びたログハウスにおれはいた。玄関も部屋も、全てのガラスが中からダンボールで塞がれており、誰か住んでいるのか外からは伺いしれない。バブル時代の遺産だろう。造りだけは妙に立派で、ここで何が起きていたのか知っている身としては、そのことが却って ”気持ち悪さ” を際立たせる。今ならこれだけで軽自動車くらい買えるんじゃないかと思うくらい、これまた立派な重たい檜のドアを引くと、中から真っ黒な塊が飛び出してきた。いや、そんな気がした。おれには霊感なんて全くないが、それでも感じる。埃と血と絶望を一緒にぐちゃぐちゃに混ぜて10倍くらいに圧縮した重たい何か。そんな物が鼻の先をかすめて通り過ぎていった。

「なんすか。この匂い」

場違いに大きな声をあげながら後ろから現れたのは、同じく捜査一課の山岡だ。山岡とは10年以上バディを組んでいるが、こういう現場には最も一緒にいたくないたぐいの人種だ。なぜなら──

「先輩、見てくださいよ。鹿とか熊の剥製がいっぱい。1つくらい人間のがあったりして」

くっくっくっと笑う山岡に冷ややかな視線を向けて、おれは暗がりの中を1歩ずつ慎重に進んだ。乱雑に重なった書類や衣類、食べかすなどの上を歩く靴の裏の感触にまだまだ慣れない。

この家は、連続殺人犯──通称『ドミノ』と呼ばれる男が”仕事部屋”にしていた屋敷だ。

5年間で13人。

ドミノ倒しのように、1人、また1人、と犠牲者が増えていった。身寄りのない人間ばかり狙われ、死体はバラバラの状態であちこちの山中で見つかった。あちこち……だ。実際、このY県のある中部地方に限らず、日本全国の山中で見つかった。


組織的な犯行か、はたまた山での仕事を生業にしている者か。とにかく神出鬼没で、決定的な証拠が見つからない。この5年で随分われわれ警察もマヌケ呼ばわりされたものだ。この事件やまに関わってから、もはや夢にまでドミノの映像が出てくるくらい悩まされてきた。

それが先日、事態は急展開を迎えた。

ドミノ本人が出頭してきたのだ。これでやっと解決かと思いきや、動機も自首した理由も、実はまだ何も分かっていない。というのも本人がほとんど黙秘しているからだ。男が13人目の遺体のありかを告げなければ、ドミノ本人なのかも怪しいくらいだった。そして、ドミノの所持品から割り出した”仕事部屋”が今おれがいる家なのだ。

重たい空気を押しのけて奥に進むと、誰が見ても明らかな”現場”が目の前に現れた。
正方形の作業机を2つ繋ぎ合わせ、上から白い布が掛けられた簡易ベッド。その横にはペンチ、ノコギリ、ナイフ、ハンマー、斧、といった道具が几帳面に等間隔にならんでいる。その全てに所々赤いものが付着しており、嫌でも道具が使われている光景が目に浮かぶ。そしてずらりと並ぶ端に見慣れないものを見かけて視線が止まった。


「ん?  なんだこれ。ピザカッター……だよな?」

丸い形の金属の周りはトゲトゲしていて、そこだけ見ると木材をカットするノコギリのようだけど、その先には持ち手が付いただけのシンプルな道具。天井からぶら下がる裸電球の青白い光を受けて鈍く存在感を放っている。

「先輩、知ってますか?  人って、痛みや恐怖で死ねるらしいですよ」

「おいおい山岡……なんのはなしだよ」

山岡にはおれの声が届いていないのか、ずらりと並ぶ凶器を見つめて続ける。

「ナイフなら一突きですかね。100として……ノコギリは10かな。だとしたら……ピザカッターは1もないでしょうね。死ぬほどの苦痛を与えるのに一体どれくらい時間がかかるんでしょうかね」

「おまえ……」

おれはいつか山岡がふらりと一線を越えてしまうのではないかと考えている。こいつはあちら側の人間だ。だからこそ、犯人の気持ちを読み取って、思わぬ成果を上げることがある。とりあえず敵にはしたくないタイプだ。

山岡の言葉が脳の裏にびたりとへばりついて離れない。頭では拒否しているのに、ピザカッターを腹の上で永遠に転がされる様子を想像してしまう。嫌な汗が背中を伝って冷たい。

「先輩、すごい顔してますよ」

「お前のせいだ」

おれの言葉を残して山岡はずんずんと奥に入っていった。暗くてよく分からないが、奥は生活をする部屋のようだ。うっすらと畳が見える。


「あぁ、なるほど。こっち来てください!」

何がなるほどなんだろう。
これ以上ここに居たくない。それでも手がかりを探さねばならない。パンッと自分の手で頬を打つと、おれは奥に進んだ。



目の前に飛び込んできたのはピザだった。
こんな山奥にどこから配達されたのだろうか。そんなどうでもいいことが気になる。ピザはドミノ……ではないようだった。

「ピザカッターはこの為にあったんすね」

山岡は明るい声で言ったが、おれは違う想像をしていた。

それならば、ピザの横にあるはずなのに、ピザカッターは凶器の横に並んでいた。ピッタリ等間隔に並んでいた道具には意思がこもっていた。そりゃピザカッターだ。ピザもカットしただろう。それはこれまたキレイに等しく分けられたピザの欠片を見れば分かる。でもこいつは──ドミノは”仕事”をした後でピザを食べていたのだ。


気が付くと、おれはピザの前に置かれた椅子に座っていた。きっとドミノがそうしただろう場所に座ってみた。目の前には先程の”仕事場”がよく見える。ここからでも簡易ベッドは青白く浮き上がって見える。

「あぁ」


声にならない声が漏れた。


そこで目の前のピザを改めて見て気が付いた。
カビたチーズとかすかな甘い匂い。


なんでおれと好みが同じなんだよ。






ピザカッターで殺人事件は起きるのか。

Xで投げかけられたすのうさんからの挑戦状。


結論。狂気があれば凶器になる。



#なんのはなしです怪




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