【ショートショート】旅行療法 : トラベルセラピー
古来より人類は旅を愛してきた。
その土地の美味しいものを食べたり、温泉につかったり、素晴らしい景色や史跡を見て感動する。
日常から切り離されたゆったりとした時間、空間で癒しを得る。
旅に行けば心身ともに健康になるのだ。
そんな結果が積み重なって、旅行療法──トラベルセラピーが遂に医療として承認された。
医師によってトラベルセラピー適応と診断されれば、医療保険の対象となり格安で旅行に行ける。
実際、トラベルセラピーで健康になることで、高齢者も病院に行く回数が減り、再び働く人までも増えた。
また、旅行客が増えた観光地への経済効果も大きく、トラベルセラピーは多くの人に歓迎された。
一方でトラベルセラピーの負の側面も同時に現れた。
特に病気でもないのに偽の診断書を書いて、医療費を稼ぐクリニック。
旅行に行きたいのに休みがとれないブラックな職場。反対に社員のほとんどが旅行に行って仕事にならず倒産する中小企業。
本当は旅行に行ってないのに、旅費を架空請求する人々。
これらは総称して”トラブルセラピー”と揶揄された。
◇◇◇
「よし、準備完了っと」
一人暮らしの小さなアパートの一室で、小さなかばんに2泊分の荷造りを完了し、独りそうつぶやいた。
ここ最近仕事が忙しく、疲れがとれないため近くのクリニックに行ったら、今巷で話題の旅行療法が適応できると診断されたのだ。
旅行なんていつぶりだろう。
社会人になって5年。ほとんど休みをとることもしなかったし、がむしゃらに仕事を頑張ってきた。
ちゃんと診断書が出たので、上司もしぶしぶ有休を許可してくれた。
よし、今日は早めに寝て明日の出発に備えよう。
「ピンポン♪」
歯磨きをしようと立ち上がったところにインターホンが鳴った。誰だろう、こんな時間に。
玄関ドアの覗き窓を見ると、険しい顔をした男が立っている。
居留守を使おうかと思ったが、キッチンの電気がついているので、アパートの廊下にも明かりが漏れてしまっているだろう。再びインターホンが鳴って、やむなくドアを開けた。
「夜分失礼します。警察です。虎古馬狩さんですね?」
「……はい、そうですが……警察の方がなんの御用でしょうか?」
心当たりがないが、冷たい汗が背中をつうっと伝った。
「虎古さん、先週藻栗クリニックに行きましたよね?」
「ええ。それがなにか?」
「そこで医師からトリップセラピーを処方されましたよね?」
「トリップ……あぁ、そうですね。今話題の旅行のやつですよね、はい」
「その時、薬も出されましたよね」
「はい。旅行に行く前に飲むように、と言われてます」
「ちょっと見せて貰えますか?」
「え? なにをですか?」
「薬です。お願いします」
おれは警察官に促されるままに、クリニックで処方された白い粉薬を持って玄関に戻った。
「これですね」
「ありがとうございます。ちょっとお待ちください」
警察官はそう言うと、カバンから何やら小さな小瓶に入った液体を取り出して、薬をひとつまみ振りかけた。
小瓶を振るとほどなくして液体が赤色に変わった。
警察官の表情がさらに険しくなる。
「虎古さん、麻薬所持の現行犯で逮捕します。署までご同行ください」
「え? え? えぇぇぇぇぇ???」
「あなたが受けた治療は、“薬で旅する”トリップセラピーですよ。そんな驚いた顔してるけど……あんた、わかってて申し込んだんだよなぁ? 」
突然警察官の口調が変わり、おれは恐怖で固まった。
「詳しい話は署で聞くから。ほら! 行くぞ」
「あ、あ、あの、今この場からトリップしたいです……」
「はぁ? ごたごた言わずに黙って付いてこい!」
はい。3作目です。よしまるさんの「旅」をテーマにしたショートストーリー企画。
ショートショートの修行にピッタリという事で、おかわりしました😊
よしまるさん、よろしくお願いします。
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サポートいただきありがとうございます😊嬉しくて一生懐きます ฅ•ω•ฅニャー