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ショートショート 『お父さんシェアリング』

オーストラリア北西部の乾燥地帯に生息するカルタという名の小さい有袋類のオスは、一回繁殖型、つまり交尾を終えると急死します。

何故だか分かりませんが我々人間もセックスをして子供が産まれると約2/3の男性が死亡するようになりました。巷では終末論者たちが、「地球を好きなように荒らしまくった人類がそろそろ終焉を迎えることを示唆している!」と声高に叫んでいますが真偽の程は分かりません。

男性の大半が死んで世界は混乱しましたが、ほとんどの力仕事はヒューマノイドが担当してくれますし、意外と父親がいなくても困らないことが分かってきました。この事実は父親にとって悪夢以外の何物でもありません。

ただたまに父親が必要な場面も家庭ではあります。それこそ結婚する時に「娘さんを下さい!」って古の一幕をやってほしがるロマンチックな女の子は多いものです。

その夢を叶えるためにどうするか?

お父さんを借りてくればいいのです。

そもそも父親がいる家庭といない家庭があるのはこの世界を分断するきっかけになりかねません。

世界中の国々の指導者たちが議論して出した結論が『お父さんシェアリング』のシステムです。

生存した父親は『お父さんシェアリング』に登録されてみんなのお父さんになるのです。

必要な時にお父さんを借りてくる。

万事解決です。


私の名前は京35253E。35歳の人間の男だ。
いやホントは雅之まさゆきという親からもらった名前があった。この機械的な名前は娘のほのかが産まれた瞬間に与えられた私の新たな名前だ。

私は1/3のロシアンルーレットに打ち勝ち新たな人生を獲得したのだ。だが、この境遇を素直に喜べるはずもない。

最初こそ妻のあかりも私のことを頻繁に借りてくれると約束していたが、一向にシェアGoの指令は飛んでこない。

京35253Eになってからこなした仕事は、参観日の出席とキャッチボールの相手の2回だけだ。

呼ばれない時は『お父さんシェアリング』保有の施設で他の父親達と共同生活を強いられている。
ただこうして何も成し遂げることなく年老いていくのだろうか。
死ぬことよりも無為に生きることが怖い。


我々『お父さんシェアリング』の中でも滋27564Sの活躍は目覚ましい。彼は何人ものリピーターが付いていて頻繁にシェアGoされている。

お陰で彼には個室が与えられ、食事も我々とは比べられないほど豪華だと聞く。
今度リピートされるコツでも聞いてみたい。





そうこうするうちに滋27564Sの死が伝えられた。噂ではシェアGo先の奥さんと関係を持ってしまって新たに子供ができたらしい。
そして彼は確率に負けた。

結局彼の本当の名前も聞けなかった。
2人目の子供ができた彼は死んだとしても幸せだったのだろうか。

私にはわからない。


遂にきた!!
あかりからのシェアGo要請だ!

ほのかももう5歳か。
会えるのが楽しみだ!





久しぶりに会ったあかり。

泣きながらあかりに告げられたのはほのかの心臓病のことだった。

難病で心臓移植をしないと助からないらしい。
その為に近い血縁者の心臓が必要とのことだった。


お父さんの心臓が欲しい。





なんだ、そんなことか。
生きる意味を見つけてくれてありがとう。
ほのかの為なら喜んで心臓の一つや二つ差し出すさ。





やっと生きた意味を与えられた私は 他のどの『お父さん』よりも幸せだ。





おきたらそこはベッドだった。
まっしろなへやで、左の手にちゅうしゃがくっついていた。


そっか。わたしびょういんでしゅじゅつってのをされたんだ。

むねがなんだかあったかい。


おかあさんがよこでないてる。どうしたの?おかあさん。



「おかあさん、なかないで。ほのかだいじょうぶだよ。」





上手くいっているように見えていた『お父さんシェアリング』のシステムですが、1人の少女の存在により世界に波紋が広がりました。


「わたしのお父さんは1人しかいない!代わりのお父さんなんていないんだよ!」


急に世界中で男性が死に始め、人類の『死』に対する感覚がおかしくなっていたのかも知れせん。

少女の叫びは多くの人が心の奥深くに押し込んでいた当たり前の気持ちを呼び覚ましました。

子供が生まれると同時に父親が死ぬ。この不思議な現象が起きてちょうど300年が過ぎていました。

世界人口は急激に縮小しかつての半分になっています。

お陰で地球上の植物や魚、昆虫、爬虫類から哺乳類まで、あらゆる生き物が命を吹き返しました。
再び地球上には多くの生命が溢れるようになりました。

この生態系のリバランスが人類の遺伝子にエピジェネティックな変化をもたらしたのか、はたまた1人の少女が奇跡を起こしたのかは分かりませんが、人類に大きな変化が起きました。


子供が生まれても父親が死ぬことが無くなったのです。


速やかに『お父さんシェアリング』は解散され、再び父親たちは家族の元に戻りました。

全員が元の家庭に幸せに迎えられたかまでは分かりません。

そしてまた、いつ『お父さんシェアリング』が復活するのかも誰にも分からないのです。




#創作大賞2024
#オールカテゴリ部門
#ショートショート
#小説

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