【ショートショート】 旅は股ずれ余は情けねぇ
穴だ。
ぽっかりと大きな穴があいている。
前に気付いた時には指1本くらいの太さだったのに、今ではこぶし大になっている。
おれはパンツにぽっかりあいた穴を見て、静かに目を閉じた。
思えば昔からそうだった。
ジーンズも、ちょうど股のところに穴があく日々だった。そもそもジーンズって、丈夫さが売りじゃなかったのか。炭鉱夫よりもおれの方が股下環境は過酷だというのか。
それにしても大きな穴だ。
買い換えるのは簡単だ。
でもおれは今、この穴があくほど摩擦を受けて擦り切れたパンツに、どうしたわけか情が湧いている。
捨てられない。
そう、言えないよ。捨てるだなんて。
おれの人生も似たようなものだ。
周りの人間に気を遣い、不要な摩擦が起きないように頭を下げながら、気がつけばおれの内側で何かがすり減っている。
一見すると、まともな大人の顔をしているのかもしれない。でも実際は穴のあいたパンツを履いているだけの残念な中年だ。
これを情けないと笑うならそれでいい。
でもおれは、これを一生懸命生きてきた証だと思っている。
人生を旅に例えるなら、おれはこの穴のあいたパンツを相棒としてスーツケースにつめこんで、これまでも、これからも一緒に生きていくのだ。
もしかしたら、営業部で成績トップの日比谷くんも、渉外部のイケメンエース美濃さんも、なんなら毎日フェラーリィで出社する城戸社長だって、みんなパンツに穴があいているかもしれない。
人生で苦労した分だけ、パンツにあいた穴は大きくなるのだ。
そうだ。パンツの穴は男の勲章だ。
なんだか愉快な気持ちになってきたおれは、リビングにパンツ一丁で飛び出した。
嫁さんがテレビを見て寛いでいたので「どうだー!」と披露したが何も反応はなかった。
いいんだよ。分かってるんだよ。
そうやって君は、おれのことをいつも無言で応援してきてくれたんだから。
いつもありがとうね。愛しているよ。
🩳🩳🩳
次の日、洗濯物を干していて異変に気がついた。
「おい、おれのパンツがないぞ?」
「あーあのボロボロのパンツね。今朝窓のサッシを拭いて捨てたわよ。綺麗になったわ♪」
これからも旅は続く。
でも、どうやらおれは、大切な相棒を失ったようだ。
よしまるさんの「旅」をテーマにしたショートストーリー企画に参加します。
今回ので確か7つ目。だんだんわからんくなってきましたが、ほんと修行みたいになってきてます笑
よしまるさん、よろしくです☺️
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サポートいただきありがとうございます😊嬉しくて一生懐きます ฅ•ω•ฅニャー