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【ショートショート】 格安ハワイツアー

ピンポンと玄関のチャイムが鳴るのでドアの隙間から覗くと40歳くらいのスーツ姿の男が立っていた。身なりはきちんとしているが、これといって特徴の無い黒縁めがねの平凡な男。

「こんにちは。突然すいません。今日はあなたにぴったりの商品をお持ちしました」

「あぁ、セールスならお断り……」

と言ってドアを閉めようとした瞬間に「いまならハワイ、格安で行けます」という声が聞こえた。

なんだその露骨なセールスは。でも、一度も行ったことのないハワイに強く憧れを感じていた俺は、男の話にもう少しだけ耳を貸すことにした。

「この円安の時代に、ハワイ3泊が10万円です。こんなチャンス滅多にないですよ」

男は旅行会社のセールスマンだった。
確かに相場よりかなり安くでハワイに行けるようだ。男が見せるタブレットには、オーシャンビューの豪華なホテルの一室が映る。なんとプールとジムも完備で、夕日のようなカクテルとビキニ姿の女性が俺の心を誘惑する。

(これで10万円かぁ。行きたいなぁ)

目の前の男は無表情で淡々と旅行プランの説明をしている。セールスマンなのに、がっつくこと無く商売気を感じないところに妙に好感を持てた。

「説明ありがとう。決めたよ。申し込むわ」

「ありがとうございます。ちなみに、失礼ですがお客様はおひとりでしょうか? ご家族は?」

「ひとりだよ。独身だし」

「かしこまりました。それではこちらの申込書にサインをお願いします」


それから1ヶ月後、俺はハワイへと飛び立った。
心配していた言葉の壁も全く問題なかった。まさか現地のお店で「いらっしゃいませ」と日本語で言われるとは想像もしていなかった。本場のロコモコやポキはとても美味しくて大満足の旅だった。

職場のお土産に定番のパイナップルの形のクッキーを買い込み、4日ぶりに我が家に帰宅すると、家中がぐっちゃぐちゃに掻き回されていた。


慌ててチェストの引き出しを確認すると、隠していた通帳や現金、それに奮発して買った高級腕時計、全て無くなっていて呆然とする。


警察に連絡した後で、少し冷静になると嫌な胸騒ぎがした。例のセールスマンの男からもらった名刺に電話をかける。



「この電話番号は現在使われておりませ……」







よしまるさんの「旅」をテーマにしたショートショート企画へ参加します。

8作目ですかね。
ギリギリですが、よしまるさん、よろしくお願いします☺️


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