Photo by
sumisumi1102
傘のことを……忘れない (ショートショート)
梅雨の季節に1番必要なのは傘だ。
梅雨と言ってもずっと降る訳ではない。
朝出かける時は降っていても、帰りには止んでいることもある。
すると起こりがちなのは、傘の忘れ物だ。
電車の中や、お店の傘立て。
色んな所に忘れられた傘が溢れる。
ここに注目した、ある科学者がいた。
彼は昔から忘れ物が多い。
特に傘に関してはひどかった。
朝持っていったのに、帰宅時には傘がないのはいつものこと。気がつけば給料の半分を傘に費やしていた。
なんとか治したい一心で研究を重ね、ついにひとつの結論にたどり着いた。
「これは遺伝だ!」
この発見に10年費やし、そこからさらに20年かけて、傘を忘れる原因の遺伝子、”KFC遺伝子(Kasa-Forgetting-Causal gene)”を発見した。
そして、さらに20年後、KFCの働きを止める薬、KFC阻害剤の開発に成功したのだ。
それと共に、KFC遺伝子に変異(異常)があるかどうかの遺伝子検査も普及し、日本人の実に4割がこの遺伝子に変異があることが分かった。もちろん、科学者の男のKFC遺伝子も異常だった。
KFC阻害剤は1日1錠、寝る前に飲めば効果が出る。
最初は皆、薬のおかげで傘を忘れなくなった。
駅の落し物置き場からも傘が消えた。
科学者の男も傘を買い直すことがなくなった。
「やったぞ!よくぞ薬を作ってくれた!!」
科学者の男は世間から喝采を浴びた……。
そして3ヶ月後……。
薬を飲み忘れる人々が現れた。再び、駅の忘れ物置き場も傘で溢れ始めた。
「やれやれ、また20年かかるかもしれない」
年老いた科学者は、傘を杖代わりに立ち上がり、薬を飲み忘れる原因遺伝子の研究を始めた。
いいなと思ったら応援しよう!
サポートいただきありがとうございます😊嬉しくて一生懐きます ฅ•ω•ฅニャー