えむのウーバーいってきます
10月に部署異動して以来、週に一回のペースで在宅勤務をしている。そして在宅勤務のうち半分、つまり月に2回の昼ごはんはバーキンと決まっている。
もちろん世の女性があこがれる高級ブランドじゃない方のバーキン、バーガーキングのことだ。
マクドナルドが吉野家としたら、モスバーガーはすき家。ロッテリアは松屋だろう。となるとバーキンはさしずめ、伝説のすた丼屋だろうか。いや違うか。例えるの下手くそすぎた。
とにかく、私はバーキンをこよなく愛しており、在宅勤務イコール ”バーキンチャンス” なのだ。
昨日もまさに ”バーキンチャンス” が訪れたので、不登校で家にいる長男にも朝から「今日のお昼はバーキンだからね」と ”予告バーキン” しておいた。と言っても彼はハンバーガーを食べられないので、ナゲットとオニオンリングと毎回決まっているのだけど。
11時になった。少し早いがそろそろモバイルオーダーすることにした。なんせ、お昼時のバーキンは非常に混雑するのだ。たとえモバイルオーダーしていたとしても、出来上がりにかなり時間を要する。待ちたくないからモバイルオーダーにしているのに、結局画面を見上げながら自分の番号が読み上げられるのを待つのは避けたい。この時間帯であれば、オーダーしてから家を出て自転車で約7分。店に着くとほぼ待たずに受け取れるはずだ。
スマホのアプリを開いてクーポンを確認する。定期的に ”バーキンチャンス” を迎えているため、ランクが上がって、オニオンリングの無料クーポンが発行されている。これは嬉しい。ついこの前もワッパー(1番基本のハンバーガー)の無料クーポンを使ったばかりだ。さすがキング。気前がいい。
と、ここで隣の部屋で仕事をしている妻にも一応声をかけようと思った。妻はバーキンよりフレッシュネス派だ。スモーキー感あふれる肉々しいバーキンは芸人でいえば ”野性爆弾”だ。対してフレッシュネスは、オシャレで品がよく、例えるなら ”和牛” だろうか。
やはり例えが下手すぎた。既に和牛は解散しているし、ハンバーガーに例えるにはその名前もややこしい。
とにかく、それくらい好みが違う妻に「バーキン食べる?」と聞いても答えは「NO」と決まっているのだが、ここで念の為その意思確認をするのとしないのとでは、その後の妻の機嫌が天と地ほども変わってくる。あぶないあぶない。
「バーキンにするけど食べる?」と聞くと「麻辣湯鍋が食べたい」と言われて2秒固まった。全く予想してなかった回答。もちろんバーキンに鍋はない。おかしいなぁ。伝わってないのかしら。
もう一度「いや、バーキン行くんやけど」と返すと「バーキンはいらないけど、すき家の麻辣湯鍋が食べたいのよ」とのこと。だめだ。ちゃんと伝わっていた。その上で彼女は、バーキンのあとすき家に寄って買ってくることをご所望なのだ。
「おれ、ウーバーじゃないんやけど」という言葉を必死に飲み込んで「分かった。オーダーしてくれる?」と極めて冷静に返す。なんて優しい夫なんだオレは。
「分かった。すぐに受け取るには店内からしかできないみたい。最短で11時50分だって」
え……。瞬時に脳内で計算する。今から家を出てバーキンを受け取るのが11時15分。そこからすき家まで自転車で5分。受け取りまで30分ある。本来11時22分には家に着いてハンバーガーを頬張っているはずなのに、すき家に行って帰ったら12時過ぎになるだろう。そもそも時間を効率的に使いたいからテイクアウトにするつも……
「はい! オーダーしたよ。おねがいね♡」
「わかりました。いってきます」
仕方ないのだ。我が家の平和の為だ。おれはウーバーだ。えむのウーバーいってきます。
「いや、さっぶっっ!!!」
思わず声に出るくらい外は寒かった。いつの間に冬になったのだ。てか秋どこいった? ついこの前まで少し歩くと汗ばんで、いつになったら長袖着れるんだよ、ってキレてたはずなのにもう冬だった。四季のリズムがおかしい。春(ドン)、夏(ドドドドドドン)、アキ(カッ)、冬(ドン)だ。
ハンバーガーを受け取ったら一旦帰宅して、またすき家に行けばいいかな? なんて思ってたけどこれは無理だ。この寒空で店と家を2往復は死ぬ。作戦変更。いのちだいじにだ。人命最優先だ。
予定通りバーキンではスムーズにハンバーガーを受け取った。時間は11時20分。あと30分あるが仕方ない。このまますき家に突入しよう。
すき家について、とりあえず何食わぬ顔で、妻から送ってもらっていたオーダー画面のスクショを見せた。
ちょっと驚いた様子の店員は、恐る恐るといった雰囲気で「お客さま、11時50分ですが……」と返してくる。そうなんだよ、20分早いんです。知ってます。でも寒くて待てないんです。と思いながら「あれ! ほんとですか!? 時間聞いてなかったよーすいません。待ちますんで作ってください」という謎の小芝居をする私。
あわてて作り始める店員さん。ごめんなさいね。
ハンバーガーの入った袋を手に5分ほど待っていると番号を呼ばれる。意外に早かった。良かった。これで帰れる。
店員「870円になります」
私「・・・」
店員「・・・ (何だこの間?)」
私「え? あ、あの。支払いってあるんですか?」
店員「え? は、はい。870円です」
商品を買ったら対価を支払う。当たり前だ。物々交換の時代から貨幣経済まで、一貫してそんなシステムがあることは私も知っている。
ただモバイルオーダーは前払いしているという思い込みがあったので、まさか受け取りで支払いがあるとは予想してなかった。てか財布持ってきてないよ。PayPayを確認するも最近チャージしてなかったから90円。小銭入れには130円。足りひんやん。
「すいません💦財布忘れちゃったんでとってきます。すいません💦」
せっかく無理に作ってもらったのに金がないってどういうことよ。店員さんごめんなさい。てか、妻よ。支払い済んでないなら教えてください。結局今から帰って、また戻ってくるとか死んじゃうんですけど。というかもう妻が取りにいったらいいんじゃね? これにて、えむのウーバー廃業します。
というぐるぐるした思いを11字に込めてLINEした。
「お金いるって。財布ない」
愛する夫からのSOSを受け取った妻は即座に私のPayPayに送金してくれた。文明の利器バンザイ。
「ペイペイ🎶」
無事支払いを済ませ、麻辣湯鍋とハンバーガーを抱えて帰宅。寒空の下、散々連れ回したハンバーガーとポテトは、当然のようにすっかり冷たくなっていた。
「ぼくも麻辣湯鍋食べたい」
長男もあったかいお昼ご飯が食べたいようだ。

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