チェックのワンピースをどこかで見つける度に
「チョコレートがあう~~♡」
まるでとろけるチョコのような顔で、レナさんはコーヒーとチョコを口にする。
そんなレナさんの顔を思わずじっと見つめていると、「ほら! 次の問題さっさとやる!」と怒られた。
「理不尽だ」
「つべこべ言わない!」
レナさんはおれの家庭教師。
週に一回、英語と数字を教えてくれる。
大学1年生だからおれの3つ上だ。
どうしてこんな奇跡、つまり高1非モテ男子の家に、キラキラ女子大生がやってきたのかと言うと、レナさんのお母さんとうちのおかんがママさんバレーで同じチームだから。ありがとうママさんバレー。ママさんバレー万歳!
そんなわけで、おれはさっきからレナさんの口元……は直視できずに、その下5センチのところにあるチェックのワンピースの柄をずっと数えている。はっきり言って集中なんてできない。それだけレナさんは年上のキレイなお姉さんで、キレイなお姉さんは好きかと聞かれたらとにかく好きだ。大好きだ。
「なおくんはコーヒー飲まないの?」
「寝れなくなるんで」
急に話しかけられて動揺する。気がついたらWeがWeeeeになっていた。テンション上がってるのバレるだろ。
「えーなにそれ。もう高校生なのにかわいい♡」
いやいやいや、女子大生からの「かわいい」は「好き」と同義ととらえていいですよね?いやむしろ、「将来結婚しようね」かもしれない。いいんですか、レナさん……!! モジモジ下を向いていると、
コンコン
おかんがドアから顔をのぞかせる。どうやら楽しい時間も終わりのようだ。
「レナちゃん、今日もありがとね。うちのバカ直樹が少しでも賢くなればいいんだけど」
「うっせえよ。バカ」
「こら! おかあさんにバカはないでしょ?なおくん!」
親子でバカバカ言い合ってたらレナさんに怒られた。
「ご、ごめん……」
「レナちゃん、これお土産ね! キャロットケーキつくったのよー!!」
「きゃー! おばさまのキャロットケーキ最高なんですぅ! ありがとうございます!!」
盛り上がる女子たちを横目で見ながら、おれはキッチンへ向かった。コーヒーはまだ飲めないから牛乳を飲むのだ。キャロットケーキ、ひそかにおれの大好物なのだ。
もぐもぐケーキを頬張っていると、おかんがキッチンに戻ってきた。
「レナさんは?」
「帰ったわよ。ほら、早くお風呂はいっちゃってね」
「はーい」
着替えを取りに部屋に戻ると、さっきまでレナさんが座っていたクッションの上で、何かがキラリと光った。
丸い金属のパーツ。ピアスのパーツだろうか。
レナさんが帰ってから10分も経ってない。今なら追いかければまだ間に合うかもしれない。
「おかん! レナさん忘れ物したみたいだからちょっと行ってくる!」
おれは金属のパーツをティッシュにくるむと、ポケットに突っ込んで外に飛び出した。
自転車にまたがり、全速力で駅に向かう。
レナさんは確か2つ隣の駅から電車で来ているはずだ。
自転車を漕ぎながら、忘れ物をしたのはわざとじゃないかと妄想する。こうやっておれを外に呼び出すための口実なんじゃ……? とそこで、この前見かけた、駅の改札でキスをする若いカップルの映像がフラッシュバックする。もしかして……レナさん、まじかよ。
5分ほど自転車を走らせると、駅前の人混みの中にレナさんの後ろ姿を見つけた。
さっきまでじっと見ていたチェックのワンピース。間違いない。
大きく息を吸い込んで、
「レナさ……!!」
と言いかけたところで、レナさんが手を挙げるのが見えた。
こちらからはレナさんの後ろ姿が見える。つまり、レナさんの視線の先には……おれではない。見知らぬ若い男が見える。
2人は笑顔で顔を見合せ、まるで歩く動作の1部かのように自然にキスをした。
軽くハグすると、2人は楽しそうに話しながら、仲良く手を繋いで改札の奥に見えなくなった。
おれはポケットの中でぐしゃぐしゃになったティッシュを駅のゴミ箱に投げ捨てた。
ものに罪は無いのにいけないことをした、とすぐに後悔が襲ってきたが、あんな場所でキスをするレナさんが悪いのだ。おれは悪くないのだと無理やり思い込むことにした。
そのまま帰る気になれなくて、レナさんのことを考えていたら、いつの間にか駅の売店でチョコレートとブラックの缶コーヒーを買っていた。
レナさんがやっていたようにチョコを口に含んでコーヒーを飲んでみる。
なんだよこれ。
どんだけチョコ食べても苦いだけじゃないかよ。
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