水無月みんな好き?
雨の匂いとあんこの匂いは京都の初夏を思い出させる。
雨が降る前に感じる、あの特有の匂いはぺトリコールと言うらしい。今や街中じゃほとんどしなくなったけれど、たまに感じるとなんだか懐かしい気分になる。
子供の頃はあの匂いがすると、「もうすぐ雨が降るよ」と、母に得意げに知らせたものだ。雨を予測できるのは、てっきり自分だけの特殊な能力だと思っていた。
実際に雨がパラパラ降ってきて、「洗濯もん、取り込めてよかったわ、ありがとうな」なんて言われるとうれしくなって、鼻の穴をふくらませながら、出されたお菓子を食べるのだった。
実家では、スナック菓子とかチョコレートなんてお洒落なものは出てこない。そのかわり、おかきや和菓子がほとんどだった。
特に初夏の頃には、美味しい季節物の和菓子が登場する。
若鮎はかわいらしい鮎の形をした優しい甘さの生地の中に、ギュウヒと餡がつまっている。頭からガブリと豪快にかぶりつき、牛乳で流し込むと、優しい甘さが体全体に広がる。
わらび餅も好きだった。たっぷりとかかったきな粉を落とさないように慎重に口に運ぶ。成功すると、口の中で弾力のあるわらび餅が踊り、きな粉の香りが鼻に抜ける。
そして水無月。白いういろう生地に、つやつやの小豆がのった三角形のお菓子。母は特に水無月が大好きで、とにかくあのサンカクとはよく出会った。本来6月最後の日に食べて厄祓いをするものだけど、母はしょっちゅう近所のスーパーで水無月を仕入れてくるのだった。どんだけ祓う厄あるねん。
出町ふたばのお上品な水無月もいいけれど、スーパーの水無月をこれまた豪快にフォークで刺してかぶりつき、あったかいお茶と一緒にいただくと、なんとなく大人になった気持ちになるのだった。
夏の午後、開け放した窓から入る湿った風と、あんこの甘い匂いが混ざり合う。
今でも、6月になるとスーパーで水無月を探す。ひと口食べれば、京都の夏がよみがえる。ちゃぶ台を囲んだおやつの時間、母の笑顔。あんこ一粒に、幼少期の全てが詰まっている。
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