見出し画像

未来の女子野球は軟式にしてみませんか?(7)

第六話

「プレイボール!」

右手を高く挙げ、主審の高らかなコールで
商店街対抗だけれど、言ってしまえば
" 草野球 " の一戦が始まった。

先攻はとみおか銀座商店街。
我が戸田地蔵商店街の先発は
エースの山本が法事で欠席の為、
二番手の投手、肉屋の中村がマウンドを
預かっている。
変化球でタイミングをズラし打ち取る
山本と違い、地肩が強い中村は
真っすぐで押していくタイプだ。

カウント2ボール1ストライクから
インコースへ投じた直球に
相手バッターは反応、スイングをして
きたが、明らかにバットの根っこだった。

センターからそれを見ていた翔子は

" ショートの後ろ、ポテンだわ " 

と判断し前進しかかったが、
思いの外、打球が伸びてセンター定位置の
ほぼ前にワンバウンドで落ちた。

" え〜、どん詰まりなのに…… " 

翔子は怪訝に思いながらもボールを
セカンドに返した。

" 何なの、今のは? " 

次の打者。
中村は目先を変えるため、追い込んでから
アウトコースにカーブを投げた。
バッターはタイミングを崩されたが
泳ぎながらも力強いスイングをした。
ボールはバットの先に当たり
ライトを守る真弓の所へ飛んで行った。
真弓は一歩前に出たが、その後は
後ろへ背走をはじめ、
結果、頭を越されツーベースとなり
1点を先取された。

" 相手バッターが年配者で足が遅い為に
助かった。まともなら3ついかれてたな。う〜ん…… " 

何とか中村さんが後続を打ち取り
1失点で初回を終えた。

ベンチに戻ると剛おじさんが

「どうだ?軟球の感じは?
少し勝手が違うだろ、硬球とは」

話し掛けてくる。

「ええ。全然。私たち打球音とかで
判断するクセがついてるから……ねぇ?」

翔子は帽子を被り直しながら応えた。

「これがねぇ、軟球と軟式複合バットの
特性と軟式野球の面白いとこなんだよ!
打球音がポッコンでもそこそこ飛んで
行くってのが!
だから誰でもヒーローになれるんよ。
その一本で一年は酒飲めるわ!
ただバントなんかはホントに芯を
外さないと内野の前まで転ぶからね」

「へぇ〜そうなんだ」

「二人とも打席に入ってみたら分かるよ」


軟球は硬球と違い、ゴムで出来ており、
中は空洞のためボールの変形が大きい。
なので軟球と硬球の打ち方は根本的に
違う打ち方になる。
硬球だとスピンをかけるような打ち方に
なるが、軟球だとボールが潰れてしまい
飛ばない。
かと言ってスイングスピードのある、
例えば社会人やプロ経験者、もしくは
高校野球有名校出身者などは
キチンとコンタクトするとボールを
割ってしまう事がある。
今では見かけないが、
(これはルールで規制がかかっている
のかはわからないけれど……)
筆者が中学生の頃、相手バッターが
全員、大根切りで地面に叩き付け、
高いバウンドの打球を打ち、
内野安打の山で負けた事があった。
当時は子供心にズルいなと思っても
ルール違反ではなかったから文句も
言えず、悔し涙を流した記憶がある。
それほど軟式と硬式とに違いがあった。
裏を返して言えば、
ボールのおかげで、小学校低学年頃の
非力な子供達や、年配者、女子なども
楽しめるのではないか?


試合は進み、この回先頭打者の
6番中村さんが外の球をひっかけながら
もレフト前にヒットを放った。

「ナイス、バッティン!」

チームの士気が俄然上がってくる。
いよいよ翔子の打順となった。

「さぁ、バッター続こうぜッ!」

「翔子ちゃん!楽に楽に!」

チームの人達から声が掛かるが、
その度にネクストバッターズサークル
からボックスへと向かう翔子の
動きが心なしかぎこちなく見える。

" やだ、緊張してきちゃったじゃん!
おかしいな、いつもはそんなに緊張
なんかしないのにな……
翔子、何ビビってんのよ! 
たかが草野球じゃないの!
とにかくリラックス、リラックス。
深呼吸、深呼吸っと…… " 

「へぇ~。あの翔子があがってるわ!」

初めて見せる翔子の姿に真弓も
驚いている。

バッターボックスの前で二度屈伸をし、
アンパイヤに挨拶をして
大きく息を吐き出しながら
ボックスに入る翔子であった。


※この物語はフィクションであり、登場
する人物、団体等、実在するものとは
一切関係ありません。


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集