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誤配と紅白と風『桜の道』

この正月の3日、郵便ポストを覗くと薄茶色の封筒が入っているのが見えた。

「Amazonで注文してたのが届いたんだ…」

そう思いながら封筒を取り出した。

「!」

同じ封筒が重なっていた。外観が全く同じ封筒だったので宅配業者がうっかり重ねてポストに入れたのだろう。宛名の住所を見ると隣の丁目だった。家に戻り宅配業者のサイトを開くと誤配についてのページがあった。そこには回収希望日時やらうちの住所や氏名やらを記入する必要があった。

「…」

いちいち記入するのも面倒だし、それにこちらのミスでもないのに回収日時に私が縛られるのも変だし、結局私が届けに行くことにした。

家を出ると冷たい風が吹いていた。一瞬、躊躇したが歩みを進めた。その時、私の脳裏に唐突にある歌が浮かんだ。


道は〜歩くためよりも〜

私が中学生時代によく聴いていた『風』の『桜の道』という曲だった。何十年も聴いてなかったのに何故浮かんできたのか自分でも不思議だった。

『風』は正やんこと伊勢正三と久保やんこと今は亡き大久保一久が結成したフォークデュオだった。高校時代にオフコースに移行するまでは本当によく聴いた。ファースト・アルバムから最後の『Old Calendar〜古暦〜』まで買い揃えて聴いていた。『桜の道』は彼らのファースト・アルバムに収録されている曲であった。


〜春にはむしろ見るためにある〜

北風を避けるために俯く冬は、やはり、道は歩くためにあるよな。

テクテク…


ふたりで歩いたこの道も〜
舞い落ちるピンクの花びらいっぱい〜

ひとりで歩く私は寒風にあおられている。しかし、『桜の道』を脳内で再生していると元気が出てきた。

スタスタ…


私が歩くたびーにー
ハラハラと散るー花びら〜
私が息をするたびーにー
心の中にまで散る花びらー

あれ!結構覚えているものである。
我ながら感心感心。

スタスタ…


まるでーあいつと別れるまでのー
数え切れない思い出を〜
一つづつ懐かしむように
山国の遅い桜は散る〜

なるほど、そういうことか!

昨年末のNHK紅白に南こうせつが『神田川』、イルカが『なごり雪』で出場するというニュースを見たのだが、『神田川』の作詞が喜多條まことで『なごり雪』の作詞作曲が伊勢正三なわけで、作詞が喜多條忠、作曲が伊勢正三に『歩く』という行動が加わった結果『桜の道』を思い出したのだろう。ファースト・アルバムのうち喜多條忠が作詞を担当したのは『桜の道』と『星空』だったはずだ。

私の思考回路の不思議さに驚きつつ、目的の家に到着して無事にポストに封筒を投函できた。

帰り道、『桜の道』の2番の歌詞を思い出そうとするが全く思い出せなかった。スマホで検索すればわかるのだろうがそこまでする必要もなかったので1番の歌詞を脳内で再生。

スタスタ…


まるでーあいつと別れるまでのー
数え切れない思い出を〜

私の思考回路が変な方向へ動き出す。

『桜の道』は、彼と別れた女性が彼との思い出を思い浮かべる情景である。『神田川』もそうだ。そうすると『桜の道』の彼女が舞い落ちる桜の花びらを見ながら思い出した思い出の一つが『神田川』なのかもしれない。

そんな妄想をしていると北風に冷えたのか年末に転んで強打した膝が痛くなってきた。

トボトボ…


道は〜歩くためよりも〜
春にはむしろ見るためにある〜

やっぱり冬は歩くためだよな…
痛む左脚を引きずりながら帰途へついた。

ヨタヨタ…

帰宅し、YouTubeで『桜の道』の2番の歌詞を確認した。


ふたりで歩いたこの道も
いつの日か花びらも散らなくなる

舞い落ちる花びらが彼との思い出ならば、いつかは彼のことも思い出さなくなるということなのか。彼との思い出を上書きするような新たな出会いが彼女にあったのだろうか?

久しぶりに聴いて、そんなことに思いを馳せてしまった。

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