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【1話読切】スーパーマリオの神隠し:中古屋で発見した”名前地層”の感動エピソード『ピンボケの幸福論8』

ファミコンのコントローラ、覚えていますか? あのえんじ色と金色の組み合わせ。まるで小さな仏壇のように神聖で、握るだけで世界が広がるような感覚でした。

御利益がありそうなコントローラ

小学校5年生の私にとって、それはただの玩具じゃなく、「冒険への扉」だったんです。

■ 勉強の「交換条件」

「ファミコンが欲しい」――親にそうねだるために、私たちは必死の約束を交わしました。「勉強するよ」「テストでいい点取るよ」「1日1時間だけにするよ」。あの瞬間は本気。でも、マリオが画面を駆け始めたら、そんな誓いは土管に吸い込まれるように消えてしまう。あの機械は、そんな魔法を持っていたんです。

■ 体を預けるジャンプの熱狂

最初に手に入れたソフトは、定番の『スーパーマリオブラザーズ』。マリオが崖を飛び越える瞬間、こちらの体も無意識に「ぐいっ」と浮き上がる。コントローラを握った手が天井に向かい、本体がガタガタ揺れる。「体ごと飛べ!」という本能の叫びでした。
昨日まで話したこともないクラスメートが、いつの間にか隣に。みんなの視線は画面に釘付けで、そこには言葉を超えた絆が生まれていました。あの頃の連帯感は、今でも懐かしい。

■ 神隠しの影と、連射の闘い

ところが、ある日突然、事件が。愛用のカセットが、箱ごと消えていたんです。遊びに来ていた友達の誰かが持ち去ったのかも。でも、誰も責めたくなくて、「神隠しだ」と決めました。あのゲームは、長い旅に出たんだって。
心にぽっかり空いた穴を埋めるため、私は高橋名人の世界に没頭。『スターソルジャー』を手に、1秒16連射を目指してボタンを叩き続ける。爪が割れ、指が赤く腫れても止められなかった。失われたマリオの喪失感を、連射の熱で吹き飛ばすように。

■ 予期せぬ再会の瞬間

それから月日が流れ、高校生になったある日。部活やテスト、淡い恋に追われていた中、ふと寄った中古ショップの隅で、それを見つけたんです。ワゴンに無造作に転がる、黄ばんだカセット。『スーパーマリオブラザーズ』。
吸い寄せられるように手に取り、裏を返した瞬間、心臓が止まりそうに。マジックで大きく書かれた「たつお」の文字。その上に二重線で消された私の名前。さらに横に、二人の友達の名前。まるで地層のように、重なり合った痕跡。
一瞬、胸がざわつきました。怒りか、悔しさか。でもすぐに、笑いがこみ上げてきたんです。「お前、こんな遠くまで来てたのかよ」って。

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■ 旅の痕跡と、優しい余韻

あの失われたソフトは、私の家から誰かの元へ渡り、貸し借りを繰り返し、名前を上書きされながら巡り巡って、ここで私を待っていた。汚れた裏側には、知らない誰かの冒険が刻まれ、手垢が物語を語っていました。悪いことをした人も、それを楽しんだ人も、今はもう遠い記憶。
手に取った瞬間、あのプラスチックの感触が蘇り、体ごとジャンプした幼い日の熱が、指先から伝わってきたんです。

■ ピンボケの幸福、人生の繰り返し

人生って、こんな風に回るのかもしれません。大切なものを失い、落ち込み、別の何かに熱中して。忘れた頃に、意外な形で戻ってくる。「盗まれた」と思えば悲しいけど、「旅を終えて帰ってきた」と思えば、微笑ましい喜劇に変わる。
買い戻したマリオは、変わらぬ電子音で歌い始めました。そのメロディーは、昔より少し優しく響くようでした。失くしたものとの再会。それだけで、人生は悪くないなと思えるんです。

あなたにも、そんな「旅をして戻ってきた」思い出、ありますか?

もうソウ太郎

『Eテレnote町田そのこ』
コンクール受賞
作品『ピンボケの幸福論』


ピンボケシリーズ【マガジン】

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