【1話読切】北の国から「2025」戦略。口下手な僕を変えたある人の存在。『ピンボケの幸福論12』
黒板五郎って知ってますか。
田舎に引っ込んで、
静かな生活を選んだ、『北の国から』のあの人。
うちの親父は逆で、
パンチパーマで街の雑居ビルで
電話を握りしめてた。
でもね、
五郎の「まっすぐさ」は、
親父にもあったんだ。
朝のひとことが、こわかった。
小学生のとき「今朝の一言」ってのがあって。
ぼくは大きくて不器用で、
人前で話すのが、どうしようもなく苦手だった。
作文も一行も書けない。
言葉が、凍るように固まった。
母が教えてくれた。
「お父さん、ちゃんと話せてるわけじゃないよ」
そう言われて、耳をすましてみた。
親父は、自分の苗字さえ噛んでた。
話してる内容は、ほとんど笑い声。
そして、決まって言うのが、
「へぇ、すっごいなぁ」
「なるほど」
「勉強になります」
それだけだった。
ああ、そういうことか。
親父は、自分が話すことに
ピントを合わせてなかったんだ。
相手の言葉という光を、
そっと受けとめることだけに、
集中してた。
会話って、じつは「聞く力」なんだ。
黒板五郎が都会の雑音を捨てて
土の音や動物の声を聞いたように、
親父も、流暢な話術なんて捨てて、
人の話を聞く達人になってた。
借りてきた作戦。
ぼくは親父の「すごいなぁ」を借りた。
「今朝の一言」を、
クイズ形式にしてみた。
誰かに話しかけて、
答えを聞く、という型に。
自分だけが話さなくていいんだ、
と思えたら、
急に楽になった。
捨てたものと、見つけたもの。
五郎は便利さを捨てて、
生きる本質を見つけた。
親父は流暢さを捨てて、
心が通う本質を見つけた。
話すのが苦手なのは、
欠点じゃないかもしれない。
それは、「聞く」という
とびきりシャープなレンズを
育てる時間だったんだ。
親父は、言葉の魔術師じゃなかった。
愛のピント調整師だった。
だから、きみも。
次に誰かと話すとき、
まず「すごいなぁ」から、
始めてみてください。
そうすれば、
会話のピントが、
ほんの少し、優しい方に合うから。
もうソウ太郎
