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【小噺02】 「あなたの身近な 縄文人⁉️」

​仕事帰りに乗ったタクシー。静かな車内に、ダッシュボードの無線機から「ザーッ」という雑音とともに本部のオペレーターの声が響いて来た。
​本部:「こちら本部。204号車、聞こえますか。〇〇町3丁目の交差点付近、いま配車可能な状態ですか」
​ドライバー:「あー、こちら204。聞こえてるよ。……うーん、3丁目ね。いま乗客の方をお乗せして向かってる最中なんだけどさ。……なんかね、あっちの空、雲の形がちょっと『今日はもう車を止めろ』って言ってる気配がするんだよね」
​本部:「雲の気配ですか」
​ドライバー:「そう。なんていうか、風の通り道が重くなってる。あそこ今から行くと、なんだか気が滞りそうな予感がするんだよなぁ」
​本部:(少しの沈黙の後、至極納得したように)
「あー……確かに、さっき別のお客さんからも『あそこらへん、いまちょっと空気が重い』ってキャンセル入りましたね。わかりました、じゃあ204号車はそのまま直感に従って流してください。無理に追わなくていいです」
​ドライバー:「すまないねぇ。自然の巡りには逆らえんからさ。感謝します」

​配車システムやGPSのデータではなく、「雲の気配」や「気の滞り」で配車判断を下すドライバーと、それを「あー、確かに」と当然のように受け入れる本部オペレーター。
​後部座席で聞いていた私は、スマホの地図アプリをそっと閉じながら心の中で呟きました。
​(「データじゃなくて『気配と調和』で仕事回してる……! 効率や売上より『自然のサイクル』を最優先するこのやり取り、完全に縄文集落の無線連絡やないか……」)



金曜の夜。
アパレルブランドの展示会帰りに乗車したタクシー内での、若手社員の3人組(先輩・同期・後輩)の会話。

後部座席では、新作ライダースの絶妙なヴィンテージ加工についてのトークが最高潮を迎えていた。

先輩:「あの革のなめし方、マジでエグッ!」
同期:「わかるわかるぅ~、エッグ!、マジでハンパねーっス!」
後輩:「オー!  タ・マッッ ゴッ!!  最高かよ!」
バックミラー越しにこれを聞いていたドライバーの心に、激しい衝撃が走った。
(「『エグ』から『エッグ』を経て、生命の源である『タマッゴ(卵)』へ至る連鎖……! 音の響きと直感だけで生命の神秘に立ち返っておるじゃないか! 最後の奴!  こやつなかなかどうして、今どきの縄文人へとなっとったか~!」)
運転手は静かに感動の涙を浮かべつつ、目的地である渋谷の交差点に滑り込みました。

メーターの表示は【4,200円】。
運転手:「お客さん、4,200円になります」
先輩:「おっ、運転手さんここで! 4,200円ね。よし、1人1,400円で割り勘な」
後輩が素早くポケットから1,000円札を1枚出し、さらにポケットの奥を探ります。
後輩:「あ、やべ……1,000円札しかない。あ、でも小銭……100円玉が2個と、えーっと……あ! 綺麗などんぐり!!」
手のひらに現れたのは、先日のロケ先で拾ったというツヤツヤの巨大などんぐり1個。
同期:「どんぐりは通貨じゃねぇし!w」
後輩:「いや、これめっちゃ丸くてイケてるんすよ! 1個200円分の価値絶対あるって!」
車内が爆笑に包まれる中、ドライバーはおもむろに振り返り、後輩の手の中のどんぐりを慈愛に満ちた眼差しで見つめた。
ドライバー:「……これは素晴らしいツヤだ。そのどんぐりは、この森(街)の豊かな実りの証……。200円分の対価として、確かに受け取りましたよ」
先輩・同期:「「えっ???」」
ドライバー:「ですので、お会計は現金4,000円と、このどんぐり1個で結構です」
後輩:「マジすか!? 運転手さん分かってるーー!!  オー!  タ・マッッ ゴッ~~!!」
ドライバー:「ええ、タマッゴッです。自然の恵みと、あなた方の巡り合わせに感謝を。お降りの際、足元お気をつけください」

タクシーを降りた後、先輩と同期は「あの運転手さん、マジで何だったの……?」と困惑。
一方、後輩だけは「やっぱ本物は本物を知るんすね~!」と大満足。

タクシーの車内では、ドライバーがダッシュボードの上に大事そうにどんぐりを供え、満足げに夜の街へと車を走らせるのでした。

おわり

  (*´︶`) 無糖 缶  2026.0731

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