まじめな日本人が国を滅ぼす -間違いだらけの経済常識- [26]国債は返さなくてよい(第1回)

国や世の中のことを良くしようと考えている人のほとんどが、日本を滅ぼすことに加担している。なぜなら彼ら・彼女らの経済に対する考え方が、致命的に間違っているからだ。そんな悲劇的な状況を少しでも変えるべく、この連載を始めた。
国債とは国の借金である。わが国は借金が多いから財政破綻の危険性が高く、少しでも借金を減らさなければならない。というのが、多くの人にとっての「常識」であろう。しかし、それは大間違いである。ほとんどの人が国債について誤解しているのだ。2回の連載を通じて、国債に関するウソを暴き、正しい理解を促したい。

1. はじめに

わが国の借金(国債などの政府債務残高)は1000兆円を超えている。借金は金額が大きいのも問題だが、収入に対してどのくらいなのかが重要であることは、誰しも納得するだろう。国で言えば、経済の規模、すなわちGDP(国内総生産)に対する割合ということになる。日本の一般政府総債務対GDP比率は271%である。GDPの2.7倍の借金があることになる。ちなみにアメリカは139%、ユーロ圏は109%であり(いずれも2025年4-6月期)、先進国では最も悪い。
この借金の多さが財政破綻の懸念につながっている。多くの有識者やメディアが、国債は暴落する、金利は急騰する、ハイパーインフレ(急激な物価上昇)が起こると言ってきた。「国民一人あたりの借金は1000万円以上」という話も聞いたことがあると思う。そんな話を聞けば、誰だってそれは大変だと考える。国(政府)の借金はいずれ税金で返す必要があるのだから、まじめな人ほど、将来の世代にツケを残すな、消費税減税などとんでもない、緊縮財政でムダを減らそうということになる。
このような考えが国を滅ぼす。何より致命的なのは、国債についての理解が全く間違っている点である。

2. 国債は税金で返さなければならないというウソ

-国と企業と家庭の借金は異なる

まず理解しなければならないのは、家庭(個人)の借金、企業の借金、国(政府)の借金は全く異なるという点だ。個人には寿命があるから、生きている間に借金は返さなければならないし、収入に比べて過大な借金が問題なのは、当然のことである。しかし、国の借金を家庭の借金に例えるのは間違いだし、「国民一人あたりの借金は1000万円以上」といった議論は、国の借金を家庭の借金と混同させる方向へのミスリーディングである。
国の借金の話に入る前に、企業の借金も家庭の借金とは異なることに触れたい。企業と家庭(個人)が違うのは、まず企業には寿命がない点である。もちろん廃業・倒産などする企業はあるが、会計上はゴーイングコンサーンと言って、企業は無期限に継続するという前提がある。したがって、企業の借金は借り換え続けることができる。銀行としても、利息をちゃんと払い続けてくれるのであれば、借金は返してもらわなくても良いのである。
企業と家庭のもう一つの違いは、企業の借金は収入の増加につながる点だ。企業は借りたお金を投資して、売上や利益を増やすことができる。むしろ、そのために借金をするのである。

-国債は返さなくても、借り換え続ければよい

国も企業と同様、永続が前提だ。ということは、企業が借金の借り換えをするように、国の借金=国債も償還期限が来たら、税金で返すのではなく、借替債を発行して借り換えればよいのである。何を言っているのかと思った人がいるかもしれないが、これは先進国では当たり前のこと、グローバルスタンダードだ。
企業が借金をして売上や利益を増やし、成長していくのと同じように、国も借金をして(国債を発行して)公共事業などの投資や支出を行い、経済を成長させる。経済が成長すれば、税収も増え、債務残高の対GDP比も減少するのである。経済成長とともに国債残高は増えていく。
しかし、国と企業の借金には決定的な違いがある。それは、国には通貨発行権があることだ。日本のような(アメリカやイギリスなども同様)自国通貨を発行できる国は、自国通貨建ての国債であれば、返済不能に陥ることは理論上ありえない。
ここで述べたことは「主張」ではない。単なる「事実」である。なぜこうした国債についての当たり前のことが国民に共有されていないのか、不思議でならない。念のため、付け加えておくが、国債を借り換え続けるということは、金利は払い続ける必要がある。これは企業が借金を借り換えて金利を払い続けるのと同じことだ。優良企業であれば、銀行にとっては借金を借り換え続けてくれるのがよい。国は返済不能に陥ることはないのだから、なおさら借り換え続けてくれればよいのだ。国にとっての負担は金利であって、元本ではないという事実は重要なので、覚えておいてほしい。

3. 日本の財政は世界最悪というウソ

-国には債務と資産がある

冒頭で、日本の一般政府総債務対GDP比率は271%と先進国で最も悪いと書いた(数値はほぼ世界最悪)。しかし、これは実態を正確に表した指標ではない。それについて説明しよう。
以前はゼロ金利・マイナス金利だったが、現在短期金利は0.75%まで上がっている。金利正常化(要は金利をもっと上げること)を主張する識者も多いが、中東情勢やアメリカの通商政策など不透明な要因のある中、必ずしも金利はスムーズに上げられているわけではない。債務残高が多いため、金利を上げると利払いが急増するから、政府が金利の上昇を抑えているとか、財政不安につながるといった解説をする向きもあるが、これはおかしな議論である。そもそも金利の上昇が利払いに影響するのは、新規発行分の国債に限る(既存の国債の利払いが増えるわけではない)のだが、それ以外にも大事な視点が抜けている。国には債務もあるが、資産もあるという当然の話である。

-純債務で見れば、日本の財政はアメリカより良い

金利が上がれば、債務の利息の支払いは増える一方、資産の利息の受け取りも増える。したがって、国の財政状況を正確に知るためには、資産も見なければおかしい。家庭(個人)の財政状況も、例えば住宅ローンの金額(負債)だけではなく、所有している自宅(資産)も見て評価するだろう。

日本政府は対GDP比率で136%の金融資産を保有している。金融資産とは、年金積立金(世界1位)や外貨準備高(中国に次ぐ世界2位)、その他貸付金、出資金、基金などである。ちなみにアメリカは33%、ユーロ圏は53%であり(いずれも2025年4-6月期)、わが国政府の金融資産は突出して多い。総債務残高から金融資産を引いた値を「純債務残高(ネットの債務残高)」と呼ぶが、こちらの方が国の財務状況を正確に表していると言える。純債務残高対GDP比率は、日本81%に対して、アメリカ106%、ユーロ圏56%となる(下表参照)。ユーロ圏よりは高いが、アメリカよりは低いのだ。

【一般政府債務残高対GDP比 %(2025年4-6月期)】
(会田卓司「日本経済の勝算」(経営科学出版)より作成)

なぜ政府が発表しメディアが取り上げるのが、「純債務残高」ではなく「総債務残高」なのだろうか? それは日本の財政状況を悪く見せようというバイアスがかかっているためである。しかし、実はさらに財政状況を悪く見せるわが国特有のルールがあるのだ。次回は、「国債60年償還ルール」を中心に、国債への誤解を解いていきたい。(つづく)

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