まじめな日本人が国を滅ぼす -間違いだらけの経済常識- [20]財政破綻論は何が間違っているのか?(第4回)
国や世の中のことを良くしようと考えている人のほとんどが、日本を滅ぼすことに加担している。なぜなら彼ら・彼女らの経済に対する考え方が、致命的に間違っているからだ。そんな悲劇的な状況を少しでも変えるべく、この連載を始めた。8月からは、まじめな日本人が消費税廃止・減税、積極財政に反対する最大の論拠である、日本は今のままでは財政破綻するという「財政破綻論」のどこが間違っているかについて、解説している。
9. 根本的に間違っている経済への理解
経済学を勉強しはじめて不思議に思ったことがある。民間銀行や日銀の実務家にとっての「常識」を、ほとんどの経済学者は理解していないことである。その最たるものが、銀行は預金を企業や個人に貸しているのではないという事実だ。
-「又貸し論」による経済の仕組みの説明
私たちが学校で習ったりして信じているのは、次のような経済の仕組みだろう。
ある銀行に現金で預金がされる(これを「本源的預金」と呼ぶ)。その預金が企業や個人に貸し出される。銀行から借りたお金は使われて、他の企業や個人の手に渡るが、また銀行に預金される。その預金がまた貸し出されて…ということが繰り返されていく。預金が全額貸し出されるわけではない。銀行は預金者から現金の支払いを求められれば、それに応じる必要がある。そこで預金残高に対して一定の割合を中央銀行(日銀)に預け入れることが義務付けられている。その割合を「支払準備率」と言う。支払準備率が10%とすれば、銀行は預金の10%を残して、つまり90%を貸し出す。次に90%の預金の90%=81%が貸し出される。さらに81%の90%が貸し出され…、こうして預金は増えていく。各銀行が限度いっぱいの貸し出しをすれば、全銀行の総預金量は10%の逆数である10倍まで増加する。
これを「信用創造」と呼ぶ。

(教えて、池上さん!「銀行が潰れたらどうなっちゃうの?」)
上図で言えば、Aさんの預金1,000万円が本源的預金で、支払準備率は10%だから、90%の900万円がBさんに、さらにその90%の810万円がCさんに貸し出される。最終的な預金額は1000万円÷10%=1億円となる。
銀行は預金者への利払いより高い金利で貸し出すことで、利ざやを稼ぐことができるが、そのプロセスを通じて世の中の預金(通貨)の量を増やしている。
-貸出に預金は必要ない「キー・ストローク・マネー」という事実
これに対して、実務家である銀行員の常識は全く異なる。銀行が企業や個人に貸し出しを行う時は、その企業や個人に現金を渡すわけではなく、預金口座に入金を記帳する。それによって預金が生まれ、通貨が増えるのである。昔は融資金額を口座に万年筆で記帳したので、「万年筆マネー」と呼ばれたりしたが、現在ではコンピュータのパソコンで打ち込むので、「キー・ストローク・マネー」と言われたりする。貸出に預金は不要なのだ。そんなバカな話があるか!と思った人もいるかもしれないが、銀行(銀行家)が書いたものを見れば、いくらでも書いてある。
なぜ、「又貸し論」は間違っていて、「キー・ストローク・マネー」は正しいのか? その理由を説明しよう(以下の例は、元日銀監事・横山昭雄「真説経済・金融の仕組み」による)。
又貸し論では、最初に銀行に現金を預け入れる「本源的預金」が必要である。例えば銀行Aが取引先である企業Xに勤務するYさんに給与40万円が支払われ、銀行BのYさんの預金口座に振り込まれたとすると、この個人預金40万円は銀行Bにとっては、貸出の見返りでない本源的預金である。しかし、銀行Aではその分企業預金が減少しているから、銀行Bの本源的預金の源泉は銀行Aの企業Xの企業預金だったことになる。そして企業Xの企業預金は製品販売先の企業Zから回収した代金か、銀行Aから借り入れたものである。さらに企業Zが製品購入を決済した企業預金も、他の企業からの代金か、銀行からの借入金で…と続く。
このように、「本源的預金」の資金源泉をたどっていけば、結局それに先行して行われた銀行による貸出に必ず行き着くことになる。つまり、貸出と無関係な本源的預金なるものはそもそも存在しない。預金は銀行の貸出(債券の購入でも良い)の見返りとして生まれるのであって、マクロ的には貸出額の合計と預金額の合計とは一致するのである。銀行が貸し出すことで、世の中の預金(通貨)は増えていく。これが本当の「信用創造」である。
-それでも銀行が預金を集める理由
貸出に預金が不要ならば、銀行は預金を集める必要はないのか?と思った人がいるかもしれない。そんなことはない。
貸出によって預金が生まれ、貸出額と預金額の合計が一致すると言ったのは、あくまでもマクロ=金融シズテム全体で見た場合である。ミクロ=個別の銀行にとっては、貸出によって生まれた預金は自行内にとどまっているとは限らず、他行に流出する。貸出先の取引相手も自行であれば、自行内の口座間の振替であるが、取引相手が他行であれば、資金は流出してしまう。1日トータルで資金不足の銀行(交換負けと言う)と資金余剰の銀行(こちらは交換勝ち)が出るが、交換負けの銀行は短期資金を調達しなければならなくなる*1。
*1コール市場と呼ばれる。日銀はこの市場の翌日返却する無担保ローンの金利を一定水準に保つことを、金利政策の誘導目標としている。
また、預金が多いほどそれを原資にした投資信託の購入や住宅ローンの借り入れなどの取引機会の拡大につながる。したがって、個別の銀行にとって預金を集める必要はあるが、貸出に預金は必要ないことになる。銀行は預金の残高を確認しながら、個別の貸出をしているわけではない(毎月支払準備率を充たしているかチェックする必要はあるが、この点は改めて説明する)。
10. 企業の資金需要が景気を決める
-返済能力と資金需要がなければ、銀行は貸し出すことができない
銀行が貸し出すことで、預金が生まれるのであれば、無限に貸し出すことができ、預金は増えるのか? そんなことはない。
まず貸出先の企業や個人に返済能力がなければ、銀行は貸出に応じないだろう。銀行は厳格な与信審査を行なって、借り手の収入見込みや返済能力を把握する。また、そもそも借り手に資金需要がなければ、銀行は企業や個人に貸し出すことはできない。
金融部門から経済全体に供給されている通貨の総量を「マネーストック」と呼ぶ。一般の企業や個人、地方自治体などが保有している現金通貨や預金通貨などの通貨量の残高を集計したもので、2025年9月で1京6,192兆円(下表参照)*2となっている。マネーストックが増えるということは、それだけ世の中に出回っているお金の量が増えているわけであり、景気も良いことになる。
*2マネーストックは何種類かあるが、表はM3=現金通貨+預金通貨(普通預金+当座預金)+準預金(定期預金等)、現金割合は現金+預金に占める現金の割合。

ここまで現金通貨(紙幣と硬貨)について触れてこなかったが、表でもわかる通り、現金通貨は貨幣量(現金とすぐに下ろすことのできる預金の合計)の10%程度にとどまる(定期預金などの準通貨も含めれば、7%程度)。企業の保有するお金のほとんどは預金通貨だし、企業間の取引も預金通貨の振替で決済されている。個人の取引の決済や送金もキャッシュレス化が進み、預金の振替や引き落としが多くを占める。現金通貨はすぐに決済が必要、少額の決済といった場合などに、預金が一時的に姿を変える補助貨幣と捉えてよいだろう。
つまり、預金通貨(マネーストックの大半)が増えることで景気は良くなる、預金は主に企業への貸出によって生まれる、したがって企業の資金需要がマクロ経済を規定する極めて重要な要素であることがわかる。経済の理解をより深めるには、さらに中央銀行(日銀)と銀行・政府の関係に触れなければいけないわけだが、そのためには色々説明することがあるので、今月はこの辺にしておきたい(つづく)。
先月高市早苗政権が誕生した。所信表明で「責任ある積極財政」を強調しており、またブレーンに永濱利廣・第一生命経済研究所主席エコノミストや会田卓司・クレディ・アグリコル証券チーフエコノミストが加わっている。一貫して積極財政を主張してきた筆者としても、その点は期待をしたい。しかし、消費税減税を否定している、財政支出の規模が大きくないといった報道もあり、本当に積極財政を推進するのか、注視が必要なようだ。
注:上記の記述にあたっては、日本銀行金融研究所編「日本銀行の機能と業務」(2011年)、横山昭雄著「真説経済・金融の仕組み」(2015年)を参考にした。
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