「深夜0時の観覧車」+「虹色の切符」
人生の半ばを生きていた僕は、同じ道、同じ仕事、同じ時刻の往復。
そんな日々に疲れ始めていた。
ある日の出勤途中の事だ。
目の前を長い髪をなびかせシルク布地らしい白いブラウスに黒のタイトスカート、ハイヒールでモデル歩きの女性に出会った。
チラと振り返ったスッキリした顔と切れ長の目に惹かれて、通勤途中であることが脳裏から吹っ飛んだ僕は女性の跡を付けて歩き出していた。
ハイヒールの靴音をカツカツと小気味よく響かせながら歩いてゆく女性は、僕の知らない道を進んでいった。
ある辻で曲がった女性の跡に付いて曲がろうとして唖然とした。

其処は、寂れた遊園地。
荒れ果てた場所に錆が浮いた遊具や乗り物が残っていた。
一際目立つ観覧車は、数十年の時を超えて老朽化の様子だ。
近くには、蔦が絡まり時の止まった時計台。
先程の女性は、こんな場所の何処に行ったのだろう。
数日たっても、例の女性が忘れられない僕は、会社帰りに寂れた遊園地に寄ってみる事にした。
月末の締め切りの為に残業をしての帰りだ。
午後の11時も過ぎていた。
そんな時間に、妙齢の女性が来ている訳もないのだが。
しかし、驚いたことに遊園地のベンチに一人の女性が腰かけていた。
まさか???と思って、近付いて行った。
すると女性が振り返り
「貴方も、観覧車に乗りに来られたのですか」と聞いてきた。
「この遊園地は既に閉鎖されていますよ。観覧車は動かないでしょう」と、僕が言うと
「あら、御存知ないのですか。深夜0時に時計台で時を告げる鐘が鳴ると動き出します」

「午前0時の10分前から虹色の切符が販売されます。」
「夫々の色で降りる場所が違います。判らなければ夜景を観て一巡りも出来ますよ」
「そうですか。誰でも乗れるのですか」
「勿論、ほら、皆さん集まって来られましたよ」
「日常に疲れた方ばかり。切符の7色は夫々の今によって色が違います。
切符にチェックが入った色が貴方の降りる駅です」
「チェックが入った所で降りると心身のリフレッシュが図れます」
「でも、降りなくても良いのです」
「常連になると判りますよ」
「そうですか。僕も乗ってみます」
「そろそろ、改札の開く時間ですわ」
急に観覧車に光が灯り、以前の活気を取り戻したような姿になった。
夫々のゴンドラに乗り込む人々に交じって僕も虹色の切符を購入した。
何気なく切符を見ると黄色にチェックが入っていたが、取り敢えずは一巡りして夜景を楽しんだ。
観覧車から降りた時、時間を見ると午前0時。
目を擦って観覧車をみると、鉄錆の浮いた見る影もない姿に戻っていた。
あの女性とは、あれから出会った事はない。
暫くして僕は、会社を辞めて別の街に引っ越した。
深夜0時の観覧車は遠い昔の幻想だったのか。
Moderato J
片桐みかんさん、僕も寄せて貰いました。
宜しゅう御願いします。
