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エッセイ#2 | 護りたい場所

新しい土地に越してきて3ヶ月。
友達はまだいない。
2歳になる子と私と、仕事の忙しい夫。
実家も義理の実家も遠く、知っている人も誰もいない。
そんな土地に越してきた。

でも、繋がりのない場所だからこそ、
こんな素敵な出会いがあるということを、
誰かにそっとお伝えしたくて、書いてみる🌸

私と、「お魚屋さん」とのお話。




私が今住んでいるところには、大型スーパーもあるけれど、
昔ながらの「お肉屋さん」や「養鶏場」や「八百屋さん」がある。
元々、引っ越してくる前は東京にいて、ネットスーパーを使うこともあったのだけれど、唯一近所にあったお魚屋さんでいつもオマケしてもらったり、
イカの捌き方を教えてもらったり、
お買い物で、人と繋がれることの楽しさを知っていたので、
引越し先を選ぶときに、できるだけ小さな個人商店がある場所を選んだ。

誰も知り合いのいない私は、できるだけそういった小さな個人商店を
見つけて、子供と一緒にお買い物にいっている。

お肉屋さんでは、新鮮な1羽の鶏が捌かれるところを見せていただけるし、
美味しいお肉の食べ方も教えてくれる。

養鶏場では、生き物独特の匂いを嗅ぎながら、出迎えてくれる猫ちゃんを触って、おじさんから卵を袋に直接入れてもらって分けていただく。

八百屋さんでは名前を知らない地元の野菜が並び、みたこともないほどの大きさの白菜がコインロッカーに入っている販売所や、ペットボトルにお金を入れて、自由に持って帰れるという場所もある。
我が子は、そのペットボトルに楽しそうに100円を何枚も入れている。

最近の子供は「魚が切り身で泳いでいると思っている」なんてニュースをみたこともあったから、我が子になんとかして、「命」をいただくことを感じて欲しいと思っていた。


しかし、引越し前のリサーチでも気づいていたけれど、近所にはお魚屋さんがなかった。
一軒だけ近所にあるという情報を見つけて電話してみたものの、ご高齢で数年前に廃業してしまったとのことだった。
どうしよう。

そうして、さらにリサーチの範囲を広げて見つけたのは、車で30分以上先にあるお魚屋さんだった。

慣れない土地で、知らない場所に向けて30分も車を運転するなんてそれだけで疲れてしまうけれど、どうしても「お魚」を「お魚屋さん」で買いたい!と思って、いってみることにした。

ついた場所は住宅街のど真ん中。でも、すぐ隣に神社もあって、
なんだかそこだけ「千と千尋の世界」に迷い込んだような場所にある。

店先では、魚を捌くちょっとぶっきらぼうなおじちゃんがいた。


「こんにちは」

「おう。いらっしゃい!」

これが、私と、お魚屋さんの最初の会話。
セリで落としてきたと思われる、白い発泡スチロールに
たくさんの氷とお魚がいっぱい並んでいた。

業務用だけかな?と思ったけれど、

「いただけるお魚はありますか?」

と聞く私に、おじちゃんは、不思議そうに私と我が子をみていた。

店先でお水をジャブジャブと流しながら魚を捌いていたけれど、
中にはもう一つ小さな作業場のようなキッチンがあった

「ちょっとこっちきな。」と店の中に案内され

黙ってついていった

「ほい。」

差し出されたのは、目の前で捌かれたお刺身

「はし、そこにあるから。」

と言われて、いいのかな?と思ったけど

「いただきます」

と言って、食べた。
めっちゃくちゃ美味しい。

「ん。」

と出されたのは、いわしの煮付け。

「いただきます!」

めっちゃめちゃ美味しい。
我が子も煮魚大好きなので大喜びで食べた。

「ごちそうさまでした。とっても美味しかったです!」

と、子と共に挨拶をすると、

「お魚、何がいいの?」

と言われた。

「なんでもいいです。いただけるものがあれば🌸」

と、特に夕食のメニューも何も決まっていない私は、お魚屋さんに全てを委ねた。
すると、おじちゃんは、生のたらと、お刺身と、煮魚をいっぱい持たせてくれて、「全部で500円だよ。」と言った。

あまりの安さに驚き、先ほど食べたお刺身や煮魚のお代はどうしたら良いですか?との質問にもおじちゃんは

「いんだよ!気にすんなよ!500円だよ!」

と言って絶対にお金は受け取らなかった。

翌日、私は、近所のちょっとしたお菓子やパンを買って、また30分かけてお魚屋さんに行った。
昨日のお礼をしたいと思ったからだ。

そうすると、おじちゃんは、またお刺身や煮魚を食べさせてくれた。

なんてこった。お礼にならない。

そこから、週3日ほど、お魚屋さんに通う生活が始まった。

お魚屋さんはご夫婦でされていて、
途中からは、おばちゃんとも仲良くなった。

おばちゃんは、小さな子供をつれる私を見て、
「昔を思い出すわ」と言って、たくさんの子育ての話をしてくれる。

だんだんと親しくなってくると、最初はプラスチックのトレーに入れていたお刺身や煮魚を、綺麗な食器に入れて渡してくれるようになった。

「そのまま食卓に出しな!刺身いじるんじゃないよ!潰れちゃうだろ!」

なんて、言いながら、小さな子供を育てる私を支えてくれようとする優しさに涙が出そうになる。

ある時、子供が風邪をひいた。
いつもお魚屋さんに週3日も通っているので、少しでも間が開くと心配すると思った私は、お店に電話した。

「風邪をひいているので、うつしたらいけないから治るまでいけれません。」

と連絡し、1週間経ってようやく元気になった時には、

「大丈夫だったか?元気になってよかったよ!」

とご夫婦ともに優しい言葉をかけていただいた。
そして、その日のお刺身には、庭で咲いている綺麗な花が添えられていた。
おじちゃんなりの快気祝いだったと思う🌸

GWも含めて、退職のご挨拶周りもあったから1ヶ月近くお店に行けないことがわかっていたので、「しばらく行けません。」と先に伝えておいた。

そうしてかなり間があいて、地元のお土産を持って久しぶりに行ったとき、おじちゃんが、

「なんかあった時、連絡取れなかったら困るからさ!携帯の番号教えてよ!」

と言ってくださった。
電話番号を交換した翌日、
「明日は病院に行くから、今日来てね」
と連絡があり、「おじちゃん大丈夫ー?」と我が子と言いながら、
またお店の椅子に座ってたくさんお話しした🌸

おじちゃんは、実は76歳。

口癖のように、

「もう、歳だし、膝痛いし、しんどいし、もうやめよっかなーって思ってるんだよ。」

と言う。でも、決まってその続きにこういうのだ。

「でもさ、お客さんが、「辞めないで」っていうからさ。あと1・2年は続けよっかな。」


私は、いつも
「おじちゃん長生きしてね!100歳までお店してね!」
と無責任なお願いをする🌸

魚を買うためだけなら、わざわざ30分もかけてそんな遠いところに行く必要はない。
でも、私は、この「お魚屋さん」にお魚ではない何かを求めて通っている。

これは一体なんと表現すればいいのかはわからない。
こういった暖かさに触れたことがない人は
「刺身や煮魚を安く分けてもらえるからメリットがあるからだろう」
とでも言うのだろうが、当然、そんなことではない

言葉にすると陳腐なものになってしまいそうで
言葉にすることすら憚られるような、
人間の、人間らしさや営みの美しさがそこにはあると思っている


ボタン一つで魚が家に届く時代に、私は30分かけてこのお魚屋さんに行きたいのだ


今日もまたお魚屋さんからメールが来た
「いい天気だから 遊びながら 出てきて イワシも鰤もあるよ」


いつもありがとうおじちゃん
「準備ができたら、すぐ行きます!」




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