第12回「斉彬暗殺」
安政二年、江戸。薩摩藩邸に激震が走った。斉彬の愛息、虎寿丸が急死し続いて斉彬までもが原因不明の病に倒れたのである。邸内には毒が盛られたのではという噂が流れ、吉之助は犯人を突き止めるべく配膳所の警戒を自らに課した。
立ち上がれば吉之助の肩に手が届くほどに成長したツンは、主人の殺気を敏感に感じ取っていた。吉之助が斉彬に供される予定の膳を一つずつ、食い入るように確認していた時のことである。ツンが突然、一客の汁椀の前に立ちはだかり地鳴りのような唸り声を上げた。
「グルルルル……ッ」
吉之助がその汁を傍らの池に流すと水面にいた数匹の鯉が激しく跳ね、瞬く間に白い腹を見せて浮かび上がった。その無惨な光景に配膳所の空気は凍りついた。吉之助が「ツン、これか……」と低く問うとツンは椀を睨みつけたまま、鋭い爪で床の畳を深く削り取った。
「誰かおらぬか! この椀が怪しか!」
吉之助の怒声が響き渡る。吉之助の主君を守らんとする咆哮に犯人とおぼしき影が闇へと逃げ去っていく。しかし、この事件を境に薩摩を覆う暗雲はさらにその色を濃くしていくのであった。
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