第4回「新藩主、島津斉彬」
嘉永四年。薩摩藩主が交代するという知らせが広がり、町は落ち着かない空気に包まれていた。島津斉興から斉彬へ。藩の未来を左右する大きな転換だった。吉之助は祝賀の準備に駆り出され、朝から走り回っていた。ツンもその後をついて歩く。体はさらに大きくなり、吉之助の腹に届くほどの高さになっていた。
祝賀の席で斉彬の視線がツンに向いた瞬間、周囲の空気がわずかに揺れた。「また大きゅうなったのう、西郷の犬は」声は穏やかだったが、その目はツンの全身を正確に見極めていた。犬ではないと理解しつつ、それを口にすることはなかった。吉之助は誇らしげにうなずいた。「はい、成長が早かとですよ」
ツンは斉彬を見上げ、地鳴りのような音で「グルゥ……」と唸った。敵意ではなく、彼なりの敬意を示すような声だった。斉彬はその音を聞き、わずかに口元を緩めた。「よか、強き者は弱き者を守らねばならぬ。そなたも、この犬も励め」
吉之助は深く頭を下げた。ツンも静かに頭を垂れた。まるで言葉を理解しているかのようで吉之助は笑った。「ツンも嬉しかとじゃろ。新しか藩主のお祝いじゃ」夕暮れの光の中、斉彬の姿とツンの影が並んで長く伸びていた。
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