金曜日の夜には【ハンべそをかく】
金曜日の夜。
部屋は静かです。
スマホの通知も減り、街の喧騒も遠ざかり、
一週間という長い列車が終着駅に滑り込む。
すると決まって現れる四人組がいます。
反省。
反復。
反攻。
そして、
ハンべそ。
なぜか全部「ハン」の音です。
まるで金曜日専属のアイドルグループのように、毎週律儀にやって来ます。
まず反省がやってきます。
「あの会議、ああ言えばよかった。」
「あの人に、もう少し優しくできたかもしれない。」
「なぜ昼飯に大盛りを頼んだ。」
人間は寝る前になると、自分の人生を勝手に総集編に編集する癖があります。
しかも編集長はだいたい意地悪です。
成功した場面はカット。
失敗シーンだけを繰り返し再生します。
次に反復です。
同じ場面。
同じ後悔。
同じ脳内会議。
人類は数万年前から進歩したと言いますが、金曜日の夜に布団の中で失敗をリピート再生する能力だけは、恐ろしく高性能です。
文明の勝利です。
そして反攻。
これが意外と大事です。
反省だけでは心が沈みます。
反復だけでは沼になります。
しかし人間は不思議な生き物で、
「来週はこうしてやる」
「次は失敗しない」
と、小さな狼煙を心の中に上げます。
世界征服ではありません。
月曜日を生き抜く程度の小さな反攻です。
しかし、そのくらいがちょうどいい。
ところが。
最後に現れるのがハンべそです。
これが厄介です。
張り詰めていた糸が切れる。
強がりがほどける。
疲れが一気に押し寄せる。
誰にも見られていない部屋で、
「なんだかなあ」
と天井を見上げる。
少し情けなくて、
少し可愛らしくて、
とても人間らしい時間です。
世の中には、
「金曜日の夜は自己投資をしろ」
「資格の勉強をしろ」
「副業をしろ」
と語る人もいます。
それも立派です。
否定しません。
しかし心がカラカラに乾いているときに必要なのは、必ずしも生産性ではありません。
時には涙です。
笑いです。
物語です。
だから私は思います。
金曜日の夜にやるべき二番目に良いことは、
良質な映画を一本観ることだ。
一番良いことが何かは知りません。
たぶん誰も知りません。
しかし二番目なら分かります。
そこで今夜のおすすめを三本。
どれも二時間前後。
どれも金曜日の夜に効きます。
『シング・ストリート 未来へのうた』
106分
青春は恥の連続です。
しかし、その恥を笑いながら走り抜ける物語でもあります。
ラストには不思議な爽快感があります。
気づけば笑顔で泣いています。
『湯を沸かすほどの熱い愛』
125分
文字通り、
笑い泣きして、
最後は大号泣する。
余命宣告された母の、
底なしの強さと家族への愛。
心の汚れがすべて洗い流される、
究極の涙活映画です。
『ワンダー 君は太陽』
113分
人の優しさは、ときどき暴力的です。
こちらの心の壁を強引に壊してきます。
家族。
友人。
学校。
誰かを思いやるという行為の尊さに、心が静かに洗われます。
「泣く」という行為は、
自律神経を緊張状態からリラックス状態へ切り替えるスイッチだとも言われています。
だから今夜くらいは、
部屋の照明を少し落として、
好きな飲み物を用意して、
物語の中へ逃げ込んでみてください。
反省も。
反復も。
反攻も。
ハンべそも。
全部まとめてスクリーンの中へ流してしまえばいい。
そうして涙と一緒に今週の負債を洗い流した頃には、
きっと土曜日の朝が少しだけ優しく見えるはずです。
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チップのお返しは・・・なにができるのか?思案橋です