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亀のお守りを、もっと喜べばよかった

昔、母が作ったお守りがあった。

5円玉に色とりどりの糸を巻いて、亀の形に仕上げたものだ。緑、紫、ピンク、オレンジ、赤。小さいのに、細かくて、丁寧で、こんなに上手だったんだと、今更ながら思う。


母は手芸が好きだった。幼い頃から、安い生地を見つけ洋服も縫ってくれた。

このお守りも、気がついたらたくさん作っていた。会うたびに持ってきてくれた。でも私は、ある時こう言ってしまった。

「もう要らない」と。

まさかそれが、最後の方の作品になるとは思っていなかった。もっと喜んであげたら良かった、と今でも思う。


母が手芸をしなくなったのは、少しずつだった。

お金がかかるから、と言った。眠くて出かけるのが面倒、と言った。
そのうちやる、と言った。でも「そのうち」は来なかった。

好きだった歌の教室も、やめた。大好きだったお風呂も、自分から入らなくなった。

後から振り返れば、あの頃すでに認知症が始まっていたのかもしれない。言い訳を作って好きなことを手放していくのは、本人の意思じゃなかったのかもしれない。

でも当時の私には、わからなかった。


77歳のある日、堺筋本町駅で母と待ち合わせて一緒に出かけた。

萬栄という卸のお店に買い物に行った。目当ては手芸糸だった。あの亀のお守りの糸を、ここで買った。

帰り道、行きと同じ駅のホームで母の顔を見た。

「この電車に乗って帰るだけやん」と言っても、不安そうな表情が消えなかった。

あの顔が、今でも忘れられない。


母は78歳ごろから、認知症と診断された。

そこから下り坂を転げ落ちるように、いろんなことが少しずつできなくなっていった。手芸も、歌も、お風呂も、外出も。最後は駅で待ち合わせして買い物に行くことも、できなくなった。

私が一番怖いのは、認知症だ。

好きなことが「面倒」になっていく。外に出るのが「不安」になっていく。そしてそれが、じわじわと、気づかないうちに始まる。


だから今日も、バイトに行く😊

人と話す。ルールを覚える。動く。知らない場所で、知らない人と、かなり緊張しながら働く。

経済的な理由もある。旅行資金も貯めたい。でも本当のことを言えば、動き続けることが怖さへの答えだと思っている。

noteを書くのも、同じ理由かもしれない。書くたびに誰かとつながって、世界が少し広がる。頭を使って、言葉を探して、「スキ」をもらって照れる。

それでいい。それがいい。


亀のお守りは、心の中で今も色鮮やかだ✨

もっと喜んであげたら良かった、という後悔は消えない。でもだからこそ、今日の自分には正直でいたいと思う。

好きなことを、言い訳を作って手放さないように。

お母さん、私はまだ動いてるよ。


好きなことを手放すのは、いつだってゆっくりと、静かに始まる。
だから今日も、動き続ける🌿

静寂に包まれたこの場所のように、お母さんの魂が安らかな光の中にありますように。 最後まで懸命に生きたその背中に、心からのありがとうを込めて…..園林堂、土橋(桂離宮)


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AT ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。今日の気づきをあなたと共有できたことに感謝します。