小説『ワンダリングノート・ファンタジー』(31)真意を探って
Chapter31
『はだしのトム! バナナですべって一回休み!』
レナはそれまで無言だった少女が突然叫び出し、しかもそれが幼い自分だと分かると、本能的に彼女を守らなければならないと感じた。そしてその小さな手を握って偽のトムから距離を置いた。
「痛いな⋯⋯突然靴が脱がされて、転ばされてしまったぞ!? これはどんなマジックなんだい?」
「トム! やっぱりあなたはまだ⋯⋯操られたままだったのね!? さっきのブランコの時から、今までずっと!」
「操られる? 僕は僕だよ。君の方こそ、何だか僕を怖がっているように見えるけど、一体どうしたんだい?」
「あなたは⋯⋯私の知ってる、いつものトムじゃないわ! 何だかその⋯⋯私に対する態度が全然違うもの!」
「態度って⋯⋯僕らは付き合ってるんだから当然じゃないか? 結婚式の準備だって、順調に進んでいるし」
レナは呆気に取られた。この絵本世界で何かを理解しようとすること自体が間違っているのは分かっていたが、せっかく再会できたトムに対して、失望のままで終わらせたくなかった。彼女は幼い自分を守るために母性本能のような感覚で落ち着きを取り戻し、逆におかしなトムとの会話に乗じて彼の真意を探ろうと問いかけた。
「あなたはさっき『僕は今⋯⋯君からすればおじさんかもしれないけど』って言ってた。その高校生の身なりで、その発言はおかしいでしょ? じゃあ、あなたは一体何歳なの?」
「僕の年齢⋯⋯? そうだな、何歳だっけ? えーと⋯⋯本当は51歳で、だけど君と婚約したのは21歳の時だったから⋯⋯ん〜、この30年間は、とっても辛いものだったな⋯⋯」
現実世界ならば錯乱状態の人物の話として片付けられるだろう。しかし、この絵本世界においてはどうなのかと、レナの悪い好奇心が塊となって口から溢れ出た。
「何が、どう辛かったの? 私にわかるように説明できる?」
偽のトムの困った表情と落ち着きのない態度を目の当たりにし、レナは自分が予想外に主導権を握っていることに自信を持ち、さらに追い込むように質問を投げかけた。
「私に振られて、婚約破棄にでもなっちゃった?」
「それだったらどんなに良かったか、君がいなくなるより、ずっとマシだ。」
「いなくなるって、どういうこと?」
「君は突然消えてしまったんだ。結婚式の前日に。そして発見された。この公園の、この池で」
その言葉を聞いたレナは全身に冷たい感覚が走るのを感じ、同時に緊迫したシーンが頭の中に鮮明に浮かんだ。池にキラリと光る何かに手を伸ばす自分、それを掴み取り、何者かに追われるように慌てて逃げる自分の姿が、まるで映画のように俯瞰で映し出されていた。

