小説『ワンダリングノート・ファンタジー』(24)ブランコに乗って
Chapter24
いつも空想に耽っていた小説好きな学生は、日常から一気に異界へと投げ出された。気持ちの整理がつくはずもなく、どこか頭の隅にそれを追いやり誤魔化す他なかった。レナを探し出すという優先事項はたった今果たされたが、彼女が示す次の「優先事項」がすでに彼を待ち受けていた。
「⋯⋯それで、話って? 大丈夫だよ、今は不思議と落ち着いてるんだ。君の元気な姿を見て、ほっとしたっていうか、気が抜けたっていうか⋯⋯」
撤去されたはずの小さなブランコを横目で見ながら、トムは言った。
「こっち。いつものブランコに乗ろう? それは今はもう、無いはずよね」
二人はブランコにゆっくり腰を下ろした。
「君は⋯⋯君がいなくなったあの日、一体何があったんだ? いや、もっと端的な質問がいいか。いきなりだけど⋯⋯君は公園で、あの恐ろしい『絵本』を見てしまったのか?」
聞き手に回っていたトムが思わず口走った。
「それが優先順位の1番? 私の事でいいの? あなたじゃなく?」
レナの思わぬ返答に、トムは面食らった。
「そうね、私が話しておかないとって言ったんだもんね。自分に起こった事から先に話すべきよね⋯⋯その方が、そうね⋯⋯いいかも」
ブランコの冷たい吊り具を触りながら俯いて、レナは続けた。
「あの日、トムと喧嘩になっちゃったじゃない?⋯⋯その後の帰り道で、そう⋯⋯あなたの言う『絵本』を見つけたの」
「それを⋯⋯見てしまったんだね?」
たまらずトムが口を挟んだ。
「何も書かれていない絵本だったの⋯⋯今にして思えば、百科事典のようでもあったわ。私ったら、どうして最初に絵本だと思ったのかしら?」
トムはレナの話を聞いて、忌まわしい記憶が蘇った。
──表紙を見ただけで、これが『絵本』だとわかるなら、君は見抜いている。そしてきっと、この本と仲良くなれるだろう──
「ひっ⋯⋯!」
夜の公園で、豹変した警官から「恐怖の尋問」を受けたと感じた時の光景がフラッシュバックし、トムを怯えさせた。
「大丈夫!? トム?」
「ああ⋯⋯大丈夫。それで?」
「何もないただの白紙の絵本をめくり続けて、この公園のブランコが描かれているページに辿り着いたの。そしたらトム、あなたがこのブランコに乗って、それで──」
「えっ!?」
トムは異変に気づいて声を上げた。座っているブランコが音もなく勝手に前後に揺れ始めると、彼の意思とは無関係に口が開き、隣に座るレナに向かって囁き始めた。
「ち⋯⋯調子はどうだい、レナ?」

