『I Will Follow Him』を聴いていたら、ユーミンと『My Way』につながった。
長距離を車で走っていたとき、ふと一曲のことを思い出した。
映画『天使にラブ・ソングを…』のクライマックスで歌われる、「I Will Follow Him」。
映画を観たのはもうずいぶん前なのに、なぜかあのメロディーが頭の中に流れてきた。
そして聴いているうちに、いくつかの言葉が妙に耳に引っかかった。
“my true love”。
そして、“my destiny”。
あれ、「DESTINY」って……。
そこから突然、ユーミンを思い出した。
松任谷由実の「DESTINY」。
もちろん、二つの曲がそっくりだという話ではない。
それでも「true love」や「destiny」といった言葉を耳にしていると、なぜだかユーミンの世界が浮かんでくる。
実際、「DESTINY」の中にも “True love, my true love” という印象的なフレーズが登場する。
偶然なのだろうか。
それとも、どこかでつながっているのだろうか。
そんなことを考えながら、「I Will Follow Him」について調べてみた。
すると、僕が『天使にラブ・ソングを…』で知っていたこの曲は、映画よりはるか昔から存在していたことを知った。
Little Peggy Marchが「I Will Follow Him」を歌って大ヒットさせたのは1963年。
(50周年版があったので、あえてそのバージョンでご紹介:-))
ところが、そこが始まりですらなかった。
さらに時間を遡ると、フランスにたどり着く。
原型となったのは、Franck Pourcelが1961年に録音した「Chariot」というインストゥルメンタル曲だった。
作曲に関わったのはPourcelと、もう一人のフランス人音楽家Paul Mauriat。
そう、後に「恋はみずいろ」などで世界的に知られる、あのポール・モーリアである。
「Chariot」はその後、フランス語の歌になり、Petula Clarkによって歌われる。そして海を渡り、英語の新しい歌詞を与えられて、1963年にLittle Peggy Marchの「I Will Follow Him」として大ヒットする。
フランスで生まれたメロディー。
そこに言葉がつき、別の言語に変わり、歌う人が変わり、アレンジも変わる。
そして約30年後にはハリウッド映画の中で歌われ、僕を含めたさらに別の世代がその曲を知ることになる。
面白いな、と思った。
そして「フランスで生まれた曲が、英語のまったく別の歌になって世界的なスタンダードになる」という話を考えていたら、今度は別の曲を思い出した。
Frank Sinatraの「My Way」である。
そういえば、あの曲もフランスだった。
「My Way」の原曲は、Claude Françoisが1967年に発表した「Comme d’habitude」。
Paul Ankaがフランスでこの曲を耳にし、英語の歌詞を書いた。
そして1969年、Frank Sinatraが歌う。
ただし、これは単なる「英訳」ではない。
「Comme d’habitude」が描いていたのは、日常の繰り返しの中で冷えてしまった男女の関係だった。
ところがPaul Ankaは、そのメロディーにまったく違う人生を与えた。
人生の終わりに立った男が、自分の歩んできた道を振り返る。
後悔も失敗もあった。
それでも、自分のやり方で生きてきた。
“My Way”。
同じメロディーなのに、言葉が変わることで、まったく別の歌になった。
ここまで考えて、最初にユーミンを思い出したことが、また気になってきた。
「DESTINY」が収録された『悲しいほどお天気』が発表されたのは1979年。
「I Will Follow Him」の大ヒットから16年後のことだ。
もちろん、ユーミンが「I Will Follow Him」に影響を受けて「DESTINY」を書いた、という話ではない。
少なくとも僕は、本人がそう語った資料を知らない。
だから「元ネタを発見した」という話にしたいわけでもない。
むしろ面白いと思ったのは、その逆だ。
私たちは、自分がこれまで聴いてきた無数の音楽を、意識しないまま頭のどこかにしまっているのではないだろうか。
1960年代のフランスで生まれたメロディーがアメリカへ渡る。
それを聴いた別の世代の音楽家たちが、新しい音楽を作る。
アメリカやヨーロッパのポップスを聴いて育った日本の若者たちが、それを自分たちの感覚に置き換えて日本のポップスを作る。
そして何十年も経ったある日。
長距離を走る車の中で、一人のリスナーの頭の中に突然、
“I Will Follow Him”
が流れてくる。
そこに出てくる “my true love” や “my destiny” という言葉から、ユーミンの「DESTINY」を思い出す。
調べてみればフランスの「Chariot」に行き着き、その話から今度はClaude Françoisの「Comme d’habitude」とSinatraの「My Way」を思い出す。
考えてみれば、音楽とはずっとこういうものだったのかもしれない。
作曲家から歌手へ。
フランスからアメリカへ。
アメリカから日本へ。
レコードから映画へ。
そして、作った人から聴いた人へ。
一本の線で「影響」と説明できるものばかりではない。
直接つながっているものもあれば、単なる偶然もある。
けれど、聴いた人間の記憶の中では、そんな区別とは関係なく曲と曲がつながっていく。
一曲を聴いて、別の曲を思い出す。
その曲を調べたら、何十年も前の、遠い国の音楽にたどり着く。
そして、そこでまた別の曲を思い出す。
そうやって音楽は、作られた瞬間だけではなく、聴かれた後にも旅を続けているのかもしれない。
『天使にラブ・ソングを…』からユーミンへ。
ユーミンから1960年代のフランスへ。
そしてフランスから、Sinatraへ。
まったく別々だと思っていた音楽が、一本の長距離ドライブの途中でつながったのでした。
音楽は、作った人から聴く人へ受け継がれていくだけではなくて。
聴いた人の記憶の中でも、ずっとつながり続けている。
そんなことを考えながら走っていると、長いドライブも少しだけ面白くなったのでした。
