【インタビュー01】美容師が剣道を通じて人とのつながりの大切さに気づく
「良く知っている人だと思っていたのに全然知らなかった」なんて感じた経験はないでしょうか。筆者は長きに渡り趣味で剣道をしていますが、剣を交える相手のことをよく知りません。剣道を通じての会話はありますが、その人がどういった経歴の持ち主なのか、職業は何をされているのかなど、知らないことの方が多いのが現状です。
そこで、今回は以前からよく知っている剣友のK添さんにインタビューをしてみました。
K添さんは剣道三段。地域の少年団で精力的に指導をされている方です。筆者の参加している稽古会でもよく竹刀を交えることがあり、よく打たれて凹んでいます。
そんなK添さんがどのようなきっかけで剣道を始めたのか、また再開のきっかけは何だったのかなど詳しく伺ってきました。
RPGに熱中していた少年と剣道の出会いは?

K添さんは一時期剣道からは離れていたとのことですが、そもそも剣道を始めたきっかけはどのようなものだったのでしょうか。
実はK添さんが剣道を始めたのは小学5年生のときのことでした。
「親に勧められて始めた感じです。テレビゲームばかりしていたので、何かをやらせたかったのだと思います」
時は空前のファミコンブーム。ゲームしかしてこなかったと言っても過言ではないくらい熱中していたというK添少年。中でも夢中になっていたのが、ドラクエなどのRPGでした。
何時間もテレビにかじりつき、スライムをやっつけては一喜一憂している姿を見た両親が「これではいかん、一刻も早くバーチャル空間から連れ出さねば」と思ったとか思わなかったとか。
K添さんは、決して自分から剣道をやりたいというタイプではなかったといいます。両親に連れられて入会した剣道教室も半ばイヤイヤという感じだったのでしょう。
「稽古に行かないとゲームをさせてもらえなかったので、ゲームをするために続けていたような感じでしたね。今なら誰もがすぐに辞めてしまうような環境だと思います」
家でゲームをしていると、電源コードを引き抜かれたことも何度か経験しているとのこと。今も昔も親と子の葛藤は同じかもしれません。
辞めたくても辞められない、綱渡りのように危な気な少年時代を過ごしたK添少年。「本当にやる気のない子供でした」と自虐的に振り返って語ります。
「稽古に行くのは本当にイヤイヤだったのですが、稽古を終えると気分がスッキリしたのをよく覚えています。今でも同じ状況ですが……」
イヤイヤながらも何とか小学校卒業までの2年間は剣道を続けられたそうです。
球技は向いていないと悟ったバレー部時代

K添さんは小学校を卒業し、地元の公立中学に入学します。残念ながら、当時はK添さんの通う中学に剣道部がありませんでした。剣道部ができたのはK添さんが中学を卒業した数年後のこと。今では息子さんが剣道部の主力選手として頑張っておられます。
剣道部の選択肢が無かったK添さんが入部したのはバレー部でした。
K添さんは、バレー部時代に一つだけ気づいたことがあるといいます。「あ、球技は向いてないわ……」と。そんなこともあり、やる気の無い部員だったそう。
ただし、友達には恵まれたようでした。バレー部にも仲のいい友達がいたこともあり、楽しく3年間を過ごしたと振り返ります。
こうしてK添少年の中学時代、剣道としては空白の3年間を過ごすのでした。
高校の部活動で剣道を再開するも……
中学を卒業後、K添さんは地元の公立高校に進学します。入学と同時に入部したのは剣道部でした。
「剣道部があるのかぁ~、久しぶりにやってみようかな」
他に入りたい部がなかったこともあり、軽い気持ちで剣道部への入部を決めたそうです。高校の剣道部は稽古がユルく、楽しい部活動だったとのこと。
剣道部の顧問は剣道未経験者でしたが、故I柳先生(教士七段)が水曜日のみ指導に来られていました。
日頃の稽古はユルく、水曜日だけが唯一厳しめの稽古です。
「I柳先生の指導だったので、厳しい稽古を望めばいくらでもできたと思うのですが、恐らくそんな稽古には誰もついていけなかったと思います」
その発言には、もう少し真面目に取り組んでいれば良かったという後悔の念も含まれているようでした。
楽しく過ごした高校時代、コツコツと真面目に取り組み、出稽古などにも励み、順調に初段、二段と昇段していきます。
残念ながら修行年限の関係もあり、高校生で三段を受審することはできませんでしたが、充実した高校生活を送っていたとのこと。
高校を卒業すると、建築関係の専門学校に進学したK添さん。ここで再び剣道から離れることになりました。
息子さんが入団した後に経験者とバレて再開

専門学校を卒業し、建築関係の企業に就職してからも剣道とは無縁の生活でした。その後、美容師に転職し、いくつかの地域の店舗へ転勤します。
転機となったのが、息子さんの少年団への入団でした。息子さんが剣道少年団に入団したのは、幼稚園年長の頃。この頃にはK添さんも地元の美容室に勤務していました。
息子さんにはバドミントンやキャッチボールなど、他のスポーツにも一通り挑戦させたといいます。しかし、残念ながらどの競技も向いていない印象。
そんな中、唯一できそうだったのが剣道でした。こうして消去法により、息子さんが剣道を始めることになったそうです。よくある、「自分が剣道経験者だから、息子にも剣道をさせよう」というケースとは異なります。
しかし、息子さんが剣道を始めてからすぐにK添さんも剣道を再開したわけではありません。
少年団に通っているうちに、なぜか剣道経験者ということがバレてしまいます。指導者が少なかったこともあり、K添さんも息子さんと一緒に剣道に取り組むことになったそうです。
指導者として勉強の日々

指導者になったといっても、K添さんには多くの剣道経験がありません。実際に現役選手として取り組んでいたのは、小学校の2年間と高校の3年間のみ。
今までは指導をするというよりも指導される側だったこともあり、とにかく知識も乏しい状態です。
そんなK添さんは、子供たちに指導すると同時に自分も指導者であり競技者として勉強します。剣道に関する知識が増えると、打ち方や構えについてなど、本当に基本的なことも知らなかったと気がついたそうです。
「学生のときは無知だったんだな、と指導するようになって初めて気がつきました」
K添さんは指導の傍ら、自分の稽古にも励みます。剣道を再開してから3年後、仕事の休みを調整して三段の昇段審査に挑みました。結果は見事合格。現在は四段を視野に入れて稽古に励んでいるところだそうです。
剣道に関しては今でもわからないことばかりだと嘆きつつ、楽しそうに語ってくれました。
「やはり四段以上の審査となると、『理合』の理解が必要ですよね」最近の悩みは理合のようです。小中学生への指導をする際には理解できていなくても何とかやっていける部分でしょう。しかし、剣道をより深く理解するには、どうしても必要となります。
道とは、果てしなく続くもの。イタリアの巨匠フェデリコ・フェリーニの映画『道』のように、剣道も人生の本質的なことを教えてくれます。
剣道を通じて社会とのつながりを持っていたい

K添さんが剣道を再開するきっかけとなった息子さんも、現在は中学生。一緒に出稽古する機会も増えました。
「息子も私と同じで、稽古に行くまでは本当にイヤイヤなんですけど、稽古を終えるとスッキリするみたいです」息子さんも、しっかりとK添さんのDNAを引き継いでいるようで安心しました。
息子さんはあと1年もすれば中学校の剣道部を引退する予定です。そうなると、少年団へも足が遠のくかもしれません。
元々はやる気のなかったK添さん、息子さんの剣道部引退を機に自身も剣道から離れることになるのでしょうか。K添さんの今後について伺いました。
「自営業をしていると、社会とのつながりがほとんど無くなってしまうことに気がつきました。その点、剣道は色々な人とのつながりができるので面白いですね。ですから、これからも少年団の指導は続けたいと思っています」
剣道には不思議な縁があります。仕事でもなく、地域に縛られるわけでもなく。今までは全く知らなかった人とも、竹刀を交えるだけで仲良くなれます。そういった人と人とのつながりは人生を豊かにするでしょう。
K添さんと筆者も、剣道をしていなければ絶対に知り合うことがありませんでした。剣道だけでなく、不思議な縁でつながった関係の一つ一つを大事にしたいと思います。
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