朝活とブレストから始まった人気講座~越境と共創で広がった「つながり」
はじめは立ち寄るだけの場所だったシェアオフィス。そこから人との出会いが生まれ、新たな挑戦が始まった――。
三井情報に勤める高瀬恭太郎さんは、ワークスタイリングのコミュニティマネージャーとの対話をきっかけに、会社の枠を超えて人が集う連続講座を開くようになりました。高瀬さんが設計した越境型学習の場は、新たなつながりや学びを呼び込み、その経験は気づきや喜びとして高瀬さん自身に還元されていきました。
こうした循環は、どのように生まれたのか。講座を一緒につくってきた高瀬さんとコミュニティマネージャーの阪田裕子さんに話を伺い、そのプロセスをたどります。
越境のきっかけは「朝活」だった
きっかけは、ワークスタイリングでの「朝活」でした。会社も職種も異なる会員が出社前に立ち寄り、コミュニティマネージャー*を交えて勉強や情報交換をする活動です。移動の合間にワークスタイリングに利用する程度だった高瀬さんも、朝活に参加するようになりました。
*コミュニティマネージャー ワークスタイリングの一部拠点に常駐するスタッフ。会員たちが多様につながり、「幸せな働き方」を見つめるきっかけをサポート。拠点での何気ない会話やイベントを通じて、会員同士がゆるくつながる機会をつくっている。
高瀬さんは当初、後に自分の講座を開くことを想像していませんでした。「僕が『これやりたいです』と企画を持ち込んだわけじゃないんです。コミュニティマネージャーさんから『イベントを企画からやりませんか』と声をかけてもらって、打ち合わせを重ねるなかで講座が少しずつ形になっていきました。その進め方自体が、とても面白かった」

高瀬恭太郎さん 三井情報株式会社 技術戦略部。デザイン思考やワークショップ設計の方法論が専門で、ファシリテーターとして社内外でワークショップを設計・実践してきた。最近では、大学での講義、イノベーション教育プログラムi.schoolの講師など、教育活動にも力を注いでいる。
「拡散」と「収束」 問いから始まった探求
ちょうどその頃、高瀬さんの関心はファシリテーションに向かっていました。三井情報で、デザイン思考やワークショップの設計をテーマに研究開発に携わっており、ファシリテーションは日々の業務にも関わる大きなテーマだったのです。
「打ち合わせやブレストの型として、『拡散』と『収束』がよく挙げられますが、僕は収束させるのが苦手だったんです。議論は盛り上がっているように見えるけれど、実は収拾がついていないだけなのではないか……。その場にいる全員が本当の問題に気づき、深い議論ができている状態こそが本当の拡散で、それができていれば自然と『ああ、そうだね』という気づきが生まれ、収束していくのではないか。そこで、ファシリテーションの必要性を感じるようになりました」
こうして2019年8月、最初のイベントが実現しました。タイトルは「『良い会議』の本質に辿り着こう!会議進行のお悩みを抱えている方、集まれ!」。高瀬さんにとって、越境の第一歩でした。
その後、2022年秋ごろのことです。このイベントについて、高瀬さんが阪田さんに話したことがきっかけで、ファシリテーションをテーマにした連続講座を一緒につくることになりました。
阪田さんは、当時を振り返ります。「何かのきっかけで、高瀬さんと私ともう一人のコミュニティマネージャーの計3人で集まって、一度ブレストをしました。すると、高瀬さんが『問いかけ』とか『ファシリテーション』をもっと深く、会社の枠を超えて探究したいとおっしゃっていて。どんなことができるのか話すうちに、それならファシリテーションに興味のある人が集まれるイベントをやってみよう、という感じになったんです」

阪田裕子さん ワークスタイリング・コミュニティーマネージャー。大学卒業後、ラジオ局にて10年間、番組制作を担当。2015年、フリーランスに。ラジオ制作、ライティング、交流会の企画・運営を行う。現在は3つのコミュニティに携わり、イベントや交流会を運営。
「生の声」をもとにした講座づくり
高瀬さんによる講座は2024年までに計10回、ワークスタイリングで開催。ファシリテーションの探究を軸にしながら、アイデアが生まれる「問いかけ」や「傾聴」。「場づくり」など、毎回異なる切り口で講座を組み立てていきました。
その際、高瀬さんたちが大切にしてきたのが、ワークスタイリングを利用する会員の生の声。コミュニティマネージャーが日々、多くの会員と接するなかで耳にした生の声やニーズをもとにテーマを磨いていきました。
阪田さんは、こう振り返ります。「ファシリの困りごとをテーマにしました。例えば、会議でアイデアを出したいのに緊張してしまう。そんな会員さんの声を聞いたら、声の小さい人でもアイデアを出せるような講座にしてみようと話し合いました」

矢印を自分ではなく、他者へ向ける
講座は、やがて十数人の定員が満席になるほど人気を集めるように。一度参加した会員が、職場の後輩を連れて来たケースもありました。「普段、社内で出会わない人や、さまざまなバックグラウンドを持った人が集まる場は、やっぱり楽しい」と高瀬さんは話します。講座を機に阪田さんとつながった参加者が、新たにイベントを立ち上げる動きも生まれ、実際に2件の開催につながりました。
阪田さんが講座に立ち会うなかで、印象に残っている高瀬さんの言葉があります。それは「矢印を自分に向けるのではなく、その場や参加者に向ける」ということ。そして、「自分ではなく、相手のことを考えるのがファシリテーションである」ということです。「こうした言葉が、高瀬さん自身を形づくっている気がして。相手のため、この場のためという視点で、講座をつくってくれています」
ファシリテーターのような役を担うとき、どうしても「時間通りに終わらせなきゃ」「議論をまとめなきゃ」と意識してしまうものです。しかし、高瀬さんはこう話します。
「その状態は自分に意識が向いてしまっていて、相手のことを考えられていないんですね。『うまくいかなかったらどうしよう』と考えるのではなく、みんなの議論がちゃんと深まっているのかを意識することが大切だと思うんですよ。
越境がもたらすものとは?
組織を越え、異なるバックグラウンドを持つ人たちと学び合う。二人は、その意義や面白さをどう捉えているのでしょうか。
高瀬さん:越境することで、逆に自分の会社の良さに気づくことがありますよね。それから講座をつくるうえでは、会社では聞けないこと、教えてくれないことを学んでもらえたらいいな、という意識はありました。同じ悩みを持っていたり、同じ関心を持つ人同士が集まるから互いに聞きやすいですし、講座を通して一緒に考えることができるんですね。
阪田さん:参加してくれた人たちは「こんな人がいるんだ」と刺激を受けたり、世界が広がった感じがしたり。だから楽しいと言ってくれる人が多いですね。越境のメリットって、自分の会社では当たり前だったことに「あれ、ちょっと違うかも」と気づいたり、自分の枠を越えたりできることなのかもしれません。
自分らしくいられる場を届ける喜び
高瀬さんには、講座やイベントを通じてうれしいと感じたことがあります。それは、参加者が普段とは違う一面を見せてくれたこと。
「コミュニティマネージャーさんは日頃からワークスタイリングの会員さんと接しているから、普段の様子を知っています。他のイベントに参加したときはおとなしいけれど、僕のイベントに来たらすごく発言している。そう阪田さんたちから聞かされたときは、とてもうれしかったですね」
高瀬さんが伝えたいことは、たくさん発言すること自体の良し悪しではありません。「別のイベントでは、話さない方が自分らしくいられたから話さなかったし、僕のイベントでは話した方が自分らしくいられたから話してくれたんだと思うんですよ」
一人の中にも「寡黙な自分」と「冗舌な自分」がいて、その時々で居心地の良い場所を選べる。そんな選択肢があることは、ウェルビーイングにもつながる大切な要素です。高瀬さん自身、そんな場を参加者に提供できたことがとてもうれしかったんですね。
組織の枠を越え、「ファシリテーションとは何か」という自らの関心に向き合った高瀬さん。その取り組みに伴走してきた阪田さん。二人のコンビネーションがあったからこそ、参加者にとって意義深く、居心地の良い場が生まれたのだと感じました。
現在、二人は新たな講座の開催について、話し合いを始めています。どんな内容になるのか、とても楽しみです。

