親の心、子知らず 朝ドラ「虎に翼」感想文(第24週)

おや‐ごころ【親心】
〘 名詞 〙
① 子を思う親の愛情。親らしい心。
② 親のような気持で思うこと。親になりかわって親切にすること。また、その心。

精選版 日本国語大辞典

「星さんも、人の親なのですね」
ほほ笑みながら結構ヒドイこという汐見を二度見した朝。第24週は、あちこちの親心を見つめながら我が身を振り返る時間だった。はあ難しい。そしてえーとあの、汐見さん、あなた航一さんをどんな人間と認識してたのよ笑

螺旋状に語りなおされる価値観

「お父さんは辛い思いをしてほしくなかったんだ」
自分の出自を隠していたことをとがめる薫に、汐見さんはそう言った。
「僕は可愛い娘が傷つくのを見たくないんだ」大学院を中退するといった優未に、航一さんはこう言った。

傷つかないで欲しい。幸せでいて欲しい。溢れる親心にあれ?これどこかで見たことが、と思ってクルクル記憶(録画)を巻き戻す。戦後すぐの民法改正審議会で、似たような会話があった。

「佐田くん、これ以上君に、傷ついてもらいたくないんだよ」
法曹界で働く寅子に家庭教師の口を紹介しようとした穂高先生。
「それが国民の幸せかなあ」
国民をこれ以上傷つけないために家制度を保持しようとした神保先生。
いずれも大切な人たちへの愛の言葉だ。彼らの愛は、子どもたちをその庇護下におき、守ろうとするマインドで表出する。守ってあげたい、あなたを傷つける全てのことから、because I love you。ユーミンだ。いつの時代も変わらない、親心という徳目

でもふと、気づいた。

「お父さんは辛い思いをしてほしくなかったんだ」「僕は可愛い娘が傷つくのを見たくないんだ」
汐見さんの言葉も航一さんの言葉も、本質的には穂高先生や神保先生と同じことを言っているのに、主体が変わっている。
”傷ついてもらいたくない主体はあなたなのだ”とは言わないで、”あなたが傷つくのを見たくない主体は自分なのだ”と表現する。

ところで先日やっていた100分de名著は「ウェイリー版”源氏物語”」だったのだけど、日本語訳を担当された翻訳者の毬矢まりえさん、森山恵さんが実に示唆に富むお話をされていた。

ドイツ哲学者のヘーゲルに「物事は螺旋的に展開していく」という言葉がある。物語にもこれは言えて、例えば日本の落語「死神」は、元をたどればドイツ民話から来たという。
長い時間の中で、(一つのモチーフとしての物語が)様々な文化や歴史を巻き込みながら螺旋的に展開していく

尊敬する朝ドラ感想文の書き手である明日雨さんがこちらのエントリーでおっしゃっておられたが、価値観は「語り直される」。固定化された役割からの解放、という言葉が響く。

親心とは思いやりなのかエゴなのか。その本質はどこにあり、結局誰のためなのか。
長い時間の中で、様々な歴史や経験を巻き込みながら、少しずつ、少しずつ時間が進み、徳目や規範は螺旋状に語りなおされ、親心の表出の仕方が、変化していく。

Under the law と Before the law

親の出自を理由に恋人から別れを告げられた薫。そんな娘の前で、崔香淑を取り戻してみたい、とヒャンちゃんはいった。

社会的には宙ぶらりんに見える道を選択しようとする優未。そんな娘の前で、どの地獄を進むか諦めるかは優未の自由、と寅子は言った。

愛おしい子どもらに、社会は全く容赦ない。「世間は優しくない」と叫んだ航一さんは多分正しい。
それでもこの物語での母たちは、娘の前に座り、目を合わせ、その選択を一緒に見つめる。子どもが傷つくことで受ける「自分のダメージ」を、ともに、引き受ける。

新潟のLight House で行われていた玉ちゃんの英語講座、テキストは日本国憲法の英訳版だった。「さて、ここのUnder the law 、というのは”法の下に”という意味ですね。ではUnderを使わないで、別の語句を使って同じ意味にできますか?」「Before the law 」「Perfect !」

私たちに社会に寄り添い続ける法律は、時に親心にも似ていたりする。under the 親心、before the 親心
underでもbeforeでも、その本質は「あなたに幸せになって欲しい」、だ。世代が交代しても価値観が変遷しても、親が子供たちに望むのは彼ら自身の幸せ。

「法律ちゅうもんはな。縛られて死ぬためにあるんじゃない。人が幸せになるためにあるんだ」と多岐川さんは言った。法を親心に変えても意味が通る。あなたに、あなた自身に幸せになってほしい。

「佐田君。愛だな…愛」多岐川さんの言葉が、全てをまるっと内包する。親心。その本質はきっと愛。


そんな親たちの愛について語ると同時期に、描かれる、おぞましい人間の姿。

ただ血縁があるだけの、親と呼ばれるモノから庇護ではなく苛烈な支配をうける命がある。

語るのも厳しい、でも確実にいて、そして今もどこかにいるはずの目を背けてはいられない事実。

25週に続いていく。