椀より土瓶
いつの間にか日本ブームみたいなものが台湾にじわじわ来て、僕の住んでいた街にも日本企業とコラボしたデパートができました。
その近くに、それまであまり行ったことのない日本料理店が一軒ありました。少し高級そうな雰囲気の店でした。
経緯とかはあんまり覚えてないです。でも多分、そんなに強くねだったわけでもなくて、親も気になってたんだと思います。ある週末、いつもみたいにデパートで遊んだあと、そのまま僕はそのお店に連れて行かれました。
そこで結構いろいろ衝撃でした。
当時の台湾って、基本的に料理もスープも大きい皿か椀かに入れて、テーブルの真ん中に置いて、それをみんなで食べて順番とかはあまり気にしない感じでした。
外食っていっても、子供はだいたい大人が頼んだものを食べるだけでした。
でもそのお店は違っていて、定食形式で、子供でも自分で注文しないといけませんでした。
子供用メニューみたいなものもなくて、大人と同じものから選ぶ感じで、僕はえびの天ぷら定食を頼みました。
まず料理は一気に出てくるのではなく、テンポよく順番に一つずつ出てきました。
前菜のような、ほんの少しのおつまみでも、きれいな皿に丁寧に盛り付けられて、自分の前に置かれました。
そして子供だからといって扱いが変わることもなく、大人たちと同じものを、同じように食べることができました。それだけのことなのに、すごく新鮮で、感動したのを覚えています。
献立の中で一番印象に残っているもののひとつは土瓶蒸しでした。そこでそれを初めて見た瞬間、思わず目がぱっと開きました。
吸い物が椀ではなく、父が普段使っている茶器みたいな器に入っていて、それを飲むというのもまず不思議でした。
味も僕にとっては新しいものでした。台湾料理の吸い物といえば、鳥や豚骨のようなシンプルな味が多かったからです。
あとから知ったのですが、そのだしはカツオやハマグリ、鶏肉などを合わせて煮込んで作るものだそうです
当時の僕は料理の知識なんてほとんどありませんでしたが、そのすっきりする味だけは一瞬で記憶に残りました。
もう一つ覚えているのはえびの天ぷらです。
当時は普段あまり揚げ物を食べていませんでしたが、デパートのフライドチキンは大好物でした。
だから色の白い、あるいは淡い黄色のエビの天ぷらを見たとき、茶色いフライドチキンと比べてなんだか違和感があって、
「これ、本当に同じ揚げ物なの?」
と一瞬思いました。
実際に食べてみると、フライドチキンとは全然違う、初めて味わうようなサクサクした食感で驚きました。
普段の僕は少食で、母のお弁当も半分くらい残すことがよくありました。
でもその日は、大人と同じ量の定食を一人で全部食べ切りました。
そのお店はずっと昔に閉店してしまいまして今は台湾式ステーキハウスですが、たまにその辺を通ると、
「あっ、ここで初めて日本の定食を食べたね」
と思い出します。
