快食ボイス706・ご当地料理はこうして生まれる──スタミナラーメンとお好み焼の共通構図
はじめに
今回は茨城県のご当地料理「スタミナラーメン」について書いてみたい。
広島の人がこの名前を聞いても、正直なところピンと来ないだろう。
ラーメンと名がついてはいるがかなり独特で、一般的なラーメン像からは大きく外れている。
しかし、この料理にははっきりした理由と背景がある。
そしてそれは、広島のお好み焼と驚くほどよく似た構図を持っている。
スタミナラーメンとは何か
スタミナラーメンは、茨城県日立市・ひたちなか市周辺で食べられているご当地料理で「スタミナ冷やし」と呼ばれる冷たい料理が本流だ。
茹でた中華麺を水で洗い、しっかり締める。
その上に、熱々のあんをたっぷりとかけて食べる。
具材は以下が基本だ。
キャベツ
人参
かぼちゃ
豚レバー
これらを油通しし、とろみの強い餡でまとめる。
見た目は中華丼の餡を、そのまま麺にかけたような印象だ。
一般的なスープラーメンの上に同じあんをのせた「温かいスタミナラーメン」もあるが、この地域で人気があるのは冷やしである。

寒い日に冷やしを食べる理由
今回、私は茨城を訪れ、スタミナ冷やしを実際に食べた。
その日はめちゃくちゃ寒かったので、本音を言えば、温かいものが食べたかった。
しかし、ラーメン好きの世界には一つの作法がある。
その店の代表的な一杯を食べていなければ「食べたことがある」とは言えない。
だから迷わずスタミナ冷やしを選んだ。
同行者は温かい方を頼んだので、味見させてもらったが、寒い日は確かに温かい方がおいしく感じるし、餡の甘さがスープで希釈されて食べやすい。
それでも、この料理の本質を知るには冷やしを食べる必要があったのだ。

とにかく甘い、という衝撃
この料理を語るうえで避けて通れないのが「甘さ」である。
スープが甘いのではない。
餡が、とにかく甘い。
キャベツやかぼちゃの甘みが前面に出ている上、餡の味付けが明瞭に甘いので、初めて食べると「え?なんでご飯が和菓子レベルに甘いの?」となる。
温かいスタミナラーメンの場合は、あっさりした醤油スープが下にある分、甘さは多少緩和される。
しかしスタミナ冷やしは、冷たい麺+甘い餡、以上。
逃げ場がない。
味変という救済──酢の力
最初は卓上の一味唐辛子をかけてみた。
しかし、当然だが甘さは誤魔化せない。
そこでふと目に入ったのが、卓上の酢である。
これをかけると、味は一気に変わる。
甘い → 甘酸っぱい → さらに唐辛子でピリ辛。
感覚的には、冷やし中華や呉冷麺に近づく。
完全に同じではないが、方向性としては理解できる味になる。
調べてみると、酢をかけるのは一般的ではないらしい。
餃子用の酢だった可能性もある。
それでも、僕にはこの酢がなければ完食は厳しかった。
スタミナラーメンの誕生
スタミナラーメンの成立は、昭和45年(1970年)前後とされている。
勝田駅前の「大進」という店で考案されたあんかけラーメンをもとに、
店長だった長井さんが、現在のスタミナラーメンの形に仕上げた。
長井さんはその後「寅さんラーメン」を経て「スタミナラーメン松五郎」を開き、松五郎が実質的なルーツとされることが多い。
今回僕が訪れたのは、その松五郎で修行した店「三四郎」である。
学生の腹を満たすための料理
この料理が生まれた背景は、極めて明快だ。
学生に腹いっぱい食べさせたい
栄養のあるものを、安く出したい
当時、豚レバーは非常に安価で、半ば捨てられるような扱いを受けていた部位らしい。
茨城は農業県で、野菜も安く手に入る。
そこで、野菜と豚レバーをあんかけにして、麺にのせる。
三四郎では、麺は3玉まで選べる。
2玉を食べている人も多かった。
まさに「腹いっぱい食べるための料理」だ。
お好み焼との共通構図
ここで、広島の人ならピンと来る話になる。
スタミナラーメンの構図は、広島のお好み焼とまったく同じである。
安い動物性タンパク質を使う
野菜と組み合わせる
腹を満たすことが最優先
豚バラ肉も、かつては安い部位だった。
三原市では鶏レバー、尾道市では砂ずり、府中市はミンチ肉。
どれも「安いから使った」のであって、名物にしようとして作られたわけではない。
発掘型のご当地料理
僕は、こうした料理を「発掘型」と呼んでいる。
生活の必然から自然に生まれ、後から名前が付いた料理だ。
一方で、
明日からこれがご当地料理です
という役所が創作したご当地料理には、こうした生活の知恵や切実さが欠けている。
当然だが文化的な厚みもない。
甘さは記憶の味である
僕は甘い味が得意ではない。
時々「弁松総本店」の弁当のような「文化としての甘さ」は食べるが、日常では食べない。
それでも、スタミナラーメンの甘さは理解できた。
これは嗜好の問題ではなく、記憶の味だからだ。
寒い日でも、客の6割が冷やしを頼んでいた。
それが、この料理の文化的強さを物語っている。
おわりに
スタミナラーメンは奇抜さを売りにしている料理ではない。
貧しさと空腹の時代に生まれた、極めて真っ当な料理である。
その一杯の向こうには、
その土地の暮らし
その時代の経済
誰かの優しさ
が透けて見える。
僕はやはり、料理の面白さは味そのもの以上に、その背景にある生活にあるのだと思う。
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