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陸海の交易でたどる5000年。『東ユーラシア全史』上田信

毎回、楽しみな上田先生の1冊。中世から近現代に到るまで、最先端の歴史知識をアップデートできるのがうれしいです。以前読んだ本は、海を渡って日本にやってきた中国人の物語についてでしたが、今回の本は先史時代から現代まで、東ユーラシアの空間を行き交ってきたモノ・ヒト・意味の「交易」を追っています。

各章のタイトルもよくて、序章が「風の中の歴史」。確かに、蒸気のない時代は、風や海流に乗ることが長距離を移動するには重要ですからね。最初は、草原を中心とした東北アジアと、海の交易圏を中心とした東南アジアそれぞれの歴史が、第一章「偏西風アジアでの文明の形成」、第二章が「モンスーンアジアでの文明の形成」。

そして、第三章が「広域交易圏の形成」から東北アジアと東南アジアの交易権が近づいて、第四章で南北の交易圏が9世紀から12世紀にかけて一体化していきます。13世紀はモンゴル帝国の時代で、ユーラシア通商圏が形成され、その後の第六章ではそれが変化し、再編されていく流れ。

私がやっぱり興味あるのは、第七章以降。タイトルも、「信仰、戦争、そして通商」。キリスト教の宣教師がアジアにやってくるようになると、物語もぐっと具体的になります。同じ宣教師でも、フランシスコ会とイエズス会はかなり特徴が違ったので、日本で受け入れられ方も違ったとか、ディテールがおもしろい。

それから、コロナ禍以降、歴史の記述では伝染病にもちゃんと言及されることが多くなった気がします。清朝が舞台のドラマでよく登場する康煕帝が皇帝に選ばれた理由の1つには天然痘に感染しても生き残ったから。もともと草原のマンチュリアには天然痘が少なくて、免疫を持たない満州族たちは漢族地域にやってきたとき多数の死者を出したのだとか。

あとは、やっぱりアヘン戦争に到るディテールですね。岡本先生の本でも少しだけ言及されていたローカル商人(カントリー・トレーダー)たちの活動と背景、そしてそこに絡んでくるキリスト教宣教師の話がたまりません。

アヘン商人ジャーディン(ジャーディン・マセソンのジャーディン!)が、出身地スコットランドの「自由な交易」っていう理念にもとづいて行動したことが、やがてアヘン戦争につながっていく話。アダム・スミスもスコットランド出身ってことで、思想的なつながりもわくわくします。

そして、アヘン戦争に負けた清朝が西欧列強の「不平等条約」体制に組み込まれたことで、彼らの関心が朝鮮半島や琉球、そして日本にも向けられていく流れはよくわかります。それぞれの国に正義があって、そのぶつかり合いが戦争になっていく歴史。

ちょっと本筋から外れますが、17世紀のネーデルラント諸州がなんで日本で「オランダ」と呼ばれたかというと、一番有力だった「ホラント」州をポルトガル宣教師を通じて記録したから、そうなったとか。日本で「イギリス」と呼ばれるのは、16世紀に来航したポルトガル人の言葉で、イングランド地方を指すポルトガル語の「イングレス」が語源だからとか。

というわけで、ポルトガルが語源の日本語は、カステラ以外にもいろいろあったことがわかったり。さらっと読んだだけでも、あちこち面白いエピソードや知識が散りばめられています。もちろん、すぐには理解できない部分もそれなりにあるので、何度か読んで、いろいろ考えてみたいです。楽しい!

日本関連なら、長崎通詞の話もおすすめです。語学の話は全部おもしろいので。


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