言葉の持つ力。インド映画『ツーリスト・ファミリー』
評判のインド映画を、やっと見に行けました。上映最後日前日、ギリギリセーフって感じです。先月は本当に忙しかったので、今週は自分へのご褒美週間。
物語の主人公は、スリランカからの不法移民の家族。でも、基本コメディだし、人情モノなので、安心して見ていられます。
家族の中心は、人情家のお父さん。奥さんと、年頃の長男に、やんちゃな次男を連れて、スリランカから海を渡ってインドにやってきます…が、いきなり海岸で警察に捕まります。まあ、そうですよね。
家族のピンチを救ったのは、次男。口八丁、手八丁で警察官の心をつかんで、ついでに観客の心もつかみます。この子がいれば、大丈夫って感じ。きっと今後も、ピンチのたびに次男が活躍するんだろうなあと思いきや……物語の後半では、このときの次男の機転が悪い方に作用します。脚本が上手い。
奥さんは、料理の上手。そして、ご近所づきあいも上手。近所の訳ありご夫婦の奥様と、すぐに仲良くなります。女同士、お互い「何かある!」って嗅覚だけで気づける感覚、わかります。シスターフッドに共感できすぎ。必然的な出会いの演出も、さりげなくて上手い。
移民を世話した奥さんのお兄さんは、「なるべく近所づきあいするな」、「スリランカのタミル語はバレるので、しゃべるな」といいますが、夫婦は基本お世話好き。ご近所づきあいが少しづつ広まって、地域のコミュニティにとけこんでいきます。
人にはそれぞれ事情があって、みんな悩みを抱えています。そんな現代の地域社会に、不法移民の家族が外来者としてやってくることで、改めて声を掛け合ったり、助け合ったり。ドタバタ・コメディを通じて、言葉の壁を越えて、お互いを支え合うことの大切さが、じんわり沁みてくる物語。
とはいえ、家族は不法移民。観客は、見る前から結末がわかっているといってもいい。問題は、どうやってそれを解決するのか。脚本家の手腕が問われます。
結末は、ここではいえないので、ぜひご自身で確認していただきたいのですが外国語を使って仕事したり、日本に来た外国ルーツの人に日本語を教えた経験のある人にとって、涙なしには見れないものになっています。
多言語映画は、字幕が相当難しいです。かなり前の台湾映画では、「国語」と福建語を区別するのに●印をつけるという苦肉の策をされていたのを思い出します。
今回のタミル語映画は、対策がバージョンアップ。なんと、スリランカのタミル語部分を日本語の古典(漢文)的なセリフで訳しているんです。例えば、インドのタミル語の場合は、普通の日本語で「しゃべる」と訳す。セイロンなまりのタミル語では「語らう」と訳す。この区別だと、方言と標準語の間にある上下関係がうまれません。考えついた人は天才です!
確か、『祝宴!シェフ』という台湾映画では、吹き替えを日本語の標準語と方言に分けていた記憶があります。字幕でなく吹き替えでしたし、博多弁(?)だったので、ギリギリセーフだった気がします。もし、標準語と関西弁の翻訳の区別だと、言語に上下関係がうまれてしまうし、使い方によっては関西弁話者が下品に聞こえる可能性もある。
インドのタミル語とスリランカのタミル語の言語的な違いは、物語の要所、要所でも重要ですが、なんといってもラストシーンでかなり重要な働きをします。翻訳者さまたちのすばらしいお仕事のおかげで、インドの映画を日本語字幕で堪能して、涙、涙で見終えることができました。
もう、公開からかなりたってしまいましたが、まだ見れる機会がある方は、ぜひ劇場で。コメディが好きな人、インドやセイロン(スリランカ)が好きな人、料理好きな人、人情物が好きな人はぜひ!
邦題:ツーリスト・ファミリー(Tourist Family)
監督:アビシャン・ジーヴィント
主な出演:シャシクマール、シムラン、ミトゥン・ジャイ・シャンカル、
カマレシュ・ジャガン他
制作:インド(2025年)127分
インド映画で言葉をあつかった名作といえば、『マダム・イン・ニューヨーク』。学校に行けなかった時代のお母さんは英語ができないのですが、今どきの娘は学校で倣っているのでバカにします。夫も男尊女卑バリバリ。そんなお母さんがNYで英語を勉強して、仲間をつくる物語。最高です!
