未来は自分たちで変えられる。『ありす、宇宙までも』売野機子
最近始まった売野機子さんの連載。宇宙飛行士を目指す女の子と、彼女を支える男の子のお話です。バディものは、昔から大好き。
交通事故で両親なくした、転校生のありす。彼女はかわいくて、運動神経抜群ですが、勉強ができないし、同級生と同じレベルで日本語を話せません。なぜかというと、ずっと両親と海外を転々としたので、どの国の言葉も中途半端な「セミリンガル」だから。この主人公の、セミリンガル設定にちょっと感動しました。

普通、子どもが外国に住めば、大人と違ってすぐ現地の言葉を覚えると勘違いされがちです。そして、自然に「バイリンガル」になると思っている人も多いです。でも、実は子どもの環境や性格によって全然違います。すぐ覚える子もいるけど、全然覚えられない子もいるからです。
なにより、バイリンガルになるには、相当な努力が必要です。簡単な意思疎通はできても、読み書きはかなりハードルが高いです。そして、読み書きができないと、ちゃんと自分の複雑な気持ちを表現できないし、勉強や仕事で使う高度な言葉を使えない。なにより、母語がはっきりしていないと、思春期にアイデンティティが揺れてしまいます。
余談ですが、私が知っている中国残留孤児2世の兄弟。お兄さんは高校から日本に来たので、日本語習得にすごく苦労したし、友達もなかなかできません。一方、小学生の弟は数ヶ月で日本語ペラペラで人気者。これは将来優秀だと思っていたのに、中学生になって不良グループの仲間入りしてしまいました。お兄さんは苦労しつつ、地元の国立大学に合格して着実な人生。言葉は、話せればいいってもんじゃないことを、思い知りました。
さて、見た目がかわいくて、日本語も英語も拙いありすは「みんなの赤ちゃん」扱い。自分の気持ちをちゃんと言えないけど、まわりが基本やさしいので嫌だといえず、助けてくれる両親もいない。何が悪いのか、言葉にできない。でも、日常生活はそれなりにできているから、祖母も先生も気づかない。そんなありすに違和感を持ったのが、訳ありの男の子、犬星類。

彼は施設育ちで、諦めることが大嫌い。「子どもは、自分の力で未来を変えることができる」が信条。「親ガチャなんか、クソ喰らえ!」とがむしゃらに勉強し、まわりにも努力を勧めますが、普通の小学生はそんなことに興味がない。だから、クラスメートから敬遠されて、友達もいない。でも、ありすの言葉にできないSOSを受け止めた犬星は、ありすが夢を叶えるための勉強方法を、一緒に考えてくれるようになるのです。

言葉を獲得して、自分を理解していく単純なよろこび。努力して、専門知識を得ることの楽しさ。知識を他人と共有することで、仲間を増やしていくことの大切さ。そういうシンプルな内容が、最近めずらしくまぶしい漫画です。
そして、ありすのセミリンガルとしての問題点を1つ1つ解決していく中で、嫌味っぽくて俺様な犬星も、少しづつ周りの同級生と打ち解けていったり、養い親や周りの大人とのいい関係を築いていけるようになっていきます。お互い支え合い、成長するって、バディものの醍醐味ですよね!
売野機子さんは『MAMA』以来のファンですが、繊細で絵柄が変わりやすく、連載も途中ストップしたり、未完だったりと不安定な部分もあって。なので、この作品も1巻が出たばかりの頃は、若干心配だったりしました。無事順調に3巻まで出たので、一応、安心してよさそうです。
ありすと犬星、そして周囲の元気な子どもたちを見ていると、こちらも元気になれます。どうか、このまま順調に連載が続いてくれますように。売野さん、ぜひ完結まで、よろしくお願いします。
