中国革命的フェミニズム『天空龍機』(鋼鉄紅女2)シーラン・ジェイ・ジャオ(中原尚哉訳)
前作が、ものすごく気になるところで終わったので、続編を心待ちにしていました。とはいえ、3年もたつとかなりの部分を忘れています。続編上巻の最初に、訳者さまが前巻の要約をまとめてくださっていて、本当に助かりました。
3年の間に、ヒューゴー賞のノミネートから外されるとか、いろいろありました。こういうの、本当に残念です。
主人公の武則天の、新しいパートナーとなった秦政。彼は、秦の始皇帝がモデルですね。200年以上眠っていた伝説の皇帝が目覚めたら、いきなり社会主義改革をやりだす展開が、期待以上でおもしろすぎました。
富裕層の汚職を断罪して、労働者の権利を擁護する皇帝。なんか、すごく現代中国への皮肉になってます。かと思えば、蒋介石の時代かと思うような、地方での共産主義運動のゴタゴタみたいな描写もあったり、保甲制度みたいな連座制が敷かれたり…うれしすぎる歴史描写にわくわくしかありません。
諸葛亮が最高司令官から反政府ゲリラに転じるし、華佗は皇帝の主治医として登場するし。諸葛亮と華佗のビジュアルは、私の場合、諏訪緑さんです。
そして、秦政をパイロットとして指導したのが羋宣って、始皇帝の高祖母の羋月(ミーユエ)がモデルですよね。以後、秦政が「羋宣」って言うたび、孫梨の顔が浮かびました。武則天も羋宣に似ている設定ですが、私のイメージは、ちょっと孫梨じゃないかなあ……
古代から近代までの中国史を縦横無尽に行き来する物語、しかも、SFでシスターフッドの物語は最高。新しく登場するのは、皇后になった武則天に仕える役に抜擢された婉児。彼女は、没落官僚の娘で教養ある女の子。婉児に教えてもらいながら、勉強する武則天は、私の大好きなシーンです。
数学者の高太平は易之の姉。父親が牛耳る男社会だった革命前は、活動する場がありませんでしたが、革命後は政府の閣僚として活躍します。彼女のリ系っぽい、インテリ金持ちっぽい知性も大好き。
さらに、2人とも女性が好きで、その方面のクラブで、革命前に実は知り合っていたというあたり、ものすごくSFで21世紀。
女の子たちを自由にするために、立ち上がる武則天。演説したり、民衆を見方につける政治を学んだり、自分を支持する女性パイロットチームをつくったり。すごい。本当に革命女子の小説。まさか、SFで読めるとは。
実力で皇帝まで這い上がった秦政と武則天。日本だと、俺様な皇帝と勝ち気な庶民出身の主人公女子は、なんだかんだいい感じにまとまるというか、女の子の側が母性を発揮して、俺様男子を受け入れて、ハッピーエンドな結末になりそうなのです。でも、作者はカナダ在住の中華女子。そんな、やわな展開にはなりせん。
武則天の初恋の相手、易之も、彼には彼なりの主張というか、めざすところがあるわけで、武則天への愛情だけじゃないのがいいです。金持ちならではの変わり身の早さとか、保身とか慎重な知性も含めて、どんな状況でも生き残るのがベストという、中華的でいいキャラです。
全体としては、『三体』読んでいたときも思いましたが、中国系の作者の書く群衆描写がリアルすぎて、そこはいつも圧倒されます。この作品も、読んでいるだけで、「蝗」という文字が浮かぶような無秩序なグロテスクさ。
そして、政治的対立の無意味さ。対外戦争しているのに、それでも身内で足をひっぱりあってしまうし、どんな状況でも女性を男性の下に置こうとする儒教的頑なさ。
秦政は羋宣将軍のいいイメージがあるので、女性の実力はみとめるけれど、それは女性の意思を尊重するのではなくて、男と同じに使う方向の「平等」。皇帝だから、武則天を認めても、決して対等の存在として尊重するわけではないし、武則天もそれに屈しないラストに驚いたけど、それもまたよし。
ラスボス的な「天庭」がちょっとあっけない気もしないではないですが、今後もいろいろ武則天が暴れそうという意味で、英語タイトルの「Heavenly Tyrant」は内容をちゃんと回収してます。日本語タイトル『天空龍機』はちょっとわかりにくいかも。まあ、前巻『鋼鉄紅女』と、漢字4文字で揃えたということだと思いますが。
まとめていうと、こんな楽しい中華SFファンタジーを日本語で読めることに感謝しかありません。待った甲斐がありましたし、また久しぶりに前巻『鋼鉄紅女』を読み返すと、いろんな気付きがあって楽しい。読書って、すばらしい。
中華小説好きな人、SF好きな人、強い女性の物語が好きな人、中国史が好きな人、多方面におすすめです。
