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台湾中部のおいしい日常。『四維街一号に暮らす五人』楊双子(三浦裕子訳)

台中市の「四維街一号」は、1938年に建てられた日本式の建築で、戦前の日本帝国台湾総督府の招待所(宿泊施設)。日本が戦争に負けた後、いろんな経緯があって、大家一族の私有財産となり、現在は台中市政府の歴史的建築に指定されて、実在なのだとか。

そんなレトロ建築の下宿で暮らすのは、大家さんと近くにある国立大生の院生たち4人。過去には、専門学校生や他大学の学生もいたけれど、レトロ建築の価値を理解しない学生たちが揉め事を起こしたので、下宿生を選んでいたら、最終的に国立大学の学生限定で落ち着きました。

登場人物は、人見知りがすぎる蕭乃云。いつもお金がない徐家樺。実家の家業を継ぐべく期待されているけれど、自由に生きたい盧小鳳。BL作家のくせに、人付き合いの機微がわからない郭知衣。そして、謎の大家さん。登場人物1人ごとに1章づつ、なんでレトロ下宿で暮らすようになったのかが描かれます。

楊双子さんの前作は、戦前の台湾グルメと2人の女性のふんわりした百合なお話でしたが、今回も女性たちの友情や愛情のお話。私はあまり詳しくないですが、シスターフッドというよりは、百合のほうが近い感じ。

女子学生なので、日常的に共有部分の台所でおしゃべりもすれば、料理もするし、一緒に近所のお店に台湾料理やスイーツを食べに行きます。その1つ1つの描写がおいしそうで、それだけ読んでいても楽しいし、お腹が空きます。

そして、乃云がたまたま見つけた『再販 臺灣料理之栞』(大正3年出版)の料理を、1章に1つづつ再現していくのがおもしろいです。大正3年といえば、1914年。現代人からすれば、ほぼ100年前の日本人がまとめたらしい台湾の料理を、あーでもない、こーでもないと作っていくのは、ちょっとした日常ミステリでもあったりします。

登場人物たちは、実家が嘉義だったり、台南だったり、宜蘭だったりととバラバラだし、閩南人だけじゃなくて、客家もいれば、阿美族の血が混じっていたり。大家さんは外省人の系譜と多民族・多言語。台湾は多文化なので、それぞれの郷土料理の話も楽しいし、喧嘩をしても独特の罵り言葉がおもしろい。

日本でいえば、九州ぐらいの大きさな台湾。でも、日本だって鹿児島と福岡では全然文化が違うだろうし、大分と佐賀、熊本、長崎が違うのも当たり前ですよね。

この小説の魅力は、5人の女性たちがそれぞれ、いい感じに影響しあいながら成長していくところと、要所ごとに挟まれるミクロな台湾の食文化を楽しめるところ。ニンゲン関係のあたたかさを感じつつ、おいしい食物を想像しつつ、いい気分になれる読書をしたい、天気のいい週末に最適かも。

台湾が好きな人や料理好きな人、それから食べ歩きや旅行が好きな人、ほんわかした恋愛小説や人情物が好きな人。いろんな人におすすめです。

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